本研究は、『万葉集』の受容の様相について、地下歌壇において本格的な『万葉集』研究の始まる近世初期に目を向け、この時期の堂上歌壇における『万葉集』の書写活動のありようを中心に検討するものである。そして、地下における『万葉集』研究と、堂上における『万葉集』の書写・利用という双方の動きがどのように影響し合い、一時代の『万葉集』受容の様相を形作っているかについても展望を示す。本年度は、次の二つの点について研究を進めた。 Ⅰ、学術図書『近世初期『万葉集』の研究―北村季吟と藤原惺窩の受容と継承―』の刊行 昨年度に平成28年度科学研究費助成事業「研究成果公開促進費(学術図書)」に応募し、採択された事業である(課題番号:16HP5035)。本書の内容は、博士論文「近世初期における万葉学のあり方について―北村季吟『万葉拾穂抄』を基礎に―」による成果と、日本学術振興会特別研究員採用期間に行った「惺窩校正本『万葉集』についての調査・検討」による成果とを合わせたものである。本年2月25日に本書を刊行した。 Ⅱ、陽明文庫所蔵「古活字本万葉集」禁裏御本書入の調査 今年度は、昨年度までに大学院生をアルバイトとして雇用し、『校本万葉集』を用いて京大本代赭書入及び諸本の訓の異同をエクセル入力してもらったデータに当該「古活字本書入」の調査データを加え、改めて陽明文庫に赴いて調査内容の確認を行った。このエクセルデータ作成は現在、巻九まで完了しており、今後、継続してデータ作成を行った上で、京大本代赭書入と「古活字本書入」、および諸本の訓の異同を比較できるようにデータベース化する必要がある。
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