研究課題/領域番号 |
14J00228
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
上杉 英里 岡山大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
キーワード | 電界効果 / 二次元層状物質 / イオン液体 / 超伝導 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、電界効果キャリアドーピングの手法を用いて、新規な二次元層状物質のLaOBiS2とペロブスカイト層状化合物のKCa2Nb3O10に静電的に電子を蓄積させ界面のキャリア濃度を変調し、その電子物性を制御する研究を行った。 Ⅰ.LaOBiS2: イオン液体を用いた電気二重層(EDL)キャパシタを用いて高濃度の電子を蓄積したLaOBiS2において超伝導転移の観測に成功した。LaOBiS2単結晶に電極を取り付け、イオン液体のBMIM[PF6]を滴下し電気二重層トランジスタ(EDLT)を作製した。LaOBiS2への電子蓄積は、イオン液体が凍り始める温度(T ~ 240 K)で正のゲート電圧Vgを印加して行った。240Kから1.3 Kまで冷却しながら電気抵抗Rを測定したところ、Vg = 6 V及び8 V印加したときのRの温度依存性において、T = 4 K付近でRの急激な低下を観測した。これについて磁場依存性を確認したところ、磁場H = 0.5 Tにおいては、Rの急激な低下が完全に消失し、温度の低下に伴いRが増加していく半導体的なR - Tプロットが観測された。したがって、T = 4 K付近のRの減少は超伝導転移に由来していると結論した。 Ⅱ.KCa2Nb3O10: 層状ペロブスカイト化合物のKCa2Nb3O10について電界効果トランジスタ(FET)を作製しnチャネル型のFET動作を観測した。KCa2Nb3O10の層間に電気化学の手法を用いてLiを挿入したLixKCa2Nb3O10は超伝導を発現することが報告されている。x = 0.1という少ないLi挿入量(電子ドーピング量)でも、電気抵抗率の低下と超伝導転移が観測されている。そこで本研究では、絶縁体のKCa2Nb3O10に静電的電子ドーピングを行い、電子物性制御と超伝導の観測を目指した。SiO2/Si基板上に転写した80 nm程度の厚みのKCa2Nb3O10単結晶を用いてFETを作製した。現時点ではドレイン電圧Vd = 10 V、Vg = 0 ~ 80 Vの条件で4端子法を用いて測定した伝導特性においてnチャネル型のFET動作を観測している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、無機・有機層状物質について電界効果キャリアドーピングを用いて電子状態制御を行い、新規な物性を開拓することを目的としている。平成27年度は、反強磁性絶縁体のBi2CuO4と二次元層状物質のLaOBiS2の電界効果トランジスタ特性のまとめと、LaOBiS2における電界誘起超伝導の観測に取り組んだ。Bi2CuO4とLaOBiS2の電界効果トランジスタ特性については、論文としてまとめAdvanced Electronic Materials誌に掲載した。LaOBiS2における電界誘起超伝導に関しては、バルク単結晶を用いた電気二重層トランジスタにおいて超伝導転移の観測に成功し、日本物理学会や日本化学会でその成果を発表した。しかしながら、目指していた絶縁体―金属―超伝導の相転移は観測できなかった。今後は、デバイスの形状を変えて電気抵抗の温度依存性を測定し、上述した相転移の観測に取り組むと同時に、論文投稿に向けて超伝導性に関する議論を発展させまとめを行う予定である。新規物質における電界誘起超伝導に関する報告は増えていないのが現状である。したがって、電界効果キャリアドーピングにおいてこれまでに着目されていなかったLaOBiS2の超伝導を実現できたことは電界効果の分野発展の観点からも意義があると評価できる。本研究では引き続き様々な対象物質について電界効果キャリアドーピングを実行し、電界誘起超伝導の可能性を見出していきたいと考えている。ただし、年度内に研究を完遂できていない超伝導と結晶構造の関係の解明については、次年度にも取り組んでいく予定である。電界誘起超伝導だけでなく、バンドエンジニアリングによる多様な電子状態の創出から高性能な電界効果トランジスタの開発を目指すなど、今後はさらに研究の幅を広げていきたいということから評価区分を②とした。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、二次元無機層状物質におけるイオン液体による電気二重層を用いた電界誘起超伝導相の創出とバンドエンジニアリングに重点的に取り組む。特に、これまでに静電的キャリアドーピングがなされていない多様な二次元層状物質系への実験を進め、電界効果による電子相制御を行う。以下に、テーマごとにその内容を記載する。 Ⅰ.KCa2Nb3O10における電界誘起超伝導の観測:層状ペロブスカイト化合物のKCa2Nb3O10は電気化学的手法を用いて層間にLi原子を挿入すると、電気抵抗率が低下し、さらに超伝導転移温度Tc ~ 2 Kの超伝導転移を示すことが確認されている。本研究では、電気化学的手法ではなく静電的キャリアドーピングを行い、高濃度の電子をKCa2Nb3O10の表面に蓄積させ、超伝導の発現を目指す。 Ⅱ.遷移金属カルコゲナイドの超伝導性と結晶構造の関係:遷移金属カルコゲナイドのMoSe2、MoTe2が電界誘起超伝導を示すことが報告されている。本研究では、MoSe2-xTexにおけるxを変えた単結晶を作製し、電界効果キャリアドーピングによる超伝導転移の観測と結晶構造の解析を行うほか、光電子ホログラフィーやX線CTR散乱を併用し電界を印加した場合における構造変化の観測にも取り組む。最近、結晶構造の変化や酸素欠損などが超伝導の起源となっている可能性が指摘されており、本研究でも結晶構造と超伝導の関係について議論を発展させたいと考えている。 Ⅲ.トポロジカル絶縁体のバンドエンジニアリング:トポロジカル絶縁体はバルクでは絶縁体である一方で、線形のバンド分散をもつことから多彩な物理現象を観測できる可能性があることで興味を持たれている。本研究では、Bi2Se3に対し電界効果ならびにドーパントの添加によりバンドエンジニアリングを行い、表面に存在する特異な電子状態の制御を行い、多様な物性の観測と超伝導の発現を目指し研究を展開する。
|