研究課題
近年、骨格筋におけるheat shock protein(HSP)72の発現増加が耐糖能障害を改善する可能性が報告されているが、そのメカニズムは不明な点が数多く残されている。当初の本研究では、ラットへの熱刺激や薬剤負荷によって骨格筋のHSP72を増加させた状態を作成し、糖代謝活性の変化やそのメカニズムについて検討する予定であった。しかしこの研究過程において、ラット単離骨格筋に対して短時間(30分以内)の温熱刺激(42℃)を与えると、HSP72が増加しないにもかかわらず、糖代謝の重要過程である骨格筋糖輸送が亢進することを見出した。さらに糖輸送亢進のメカニズムとして、糖代謝制御分子である5’ AMP activated protein kinase(AMPK)が活性化され、glucose transporter(GLUT)4のトランスロケーションが誘導されることが示唆された。また、温熱刺激はエネルギー代謝の指標であるグリコーゲン貯蔵量を有意に減少させ、グリコーゲン合成速度を有意に亢進させた。一方、温熱刺激はタンパク質合成シグナルを負に制御することが示された。したがって、温熱刺激によって骨格筋内へ取り込まれたグルコースは、グリコーゲン合成を促進させ、枯渇したグリコーゲンを補充するために利用されると推察される。今回の検討では、温熱刺激はグリコーゲン合成速度を有意に亢進させることが明らかとなり、運動類似の生理学的作用を有する可能性が示唆された。温熱刺激が運動類似効果を有するのであれば、怪我や疾病、加齢により運動が困難になった人に対する、骨格筋糖代謝機能の維持・改善を目的とした運動擬似効果を得るための物理療法になる可能性を示唆している。さらに今回の研究は、短時間の温熱刺激がHSP72とは独立して、骨格筋糖代謝を急性的に亢進する可能性を示唆する有力な結果であることがいえる。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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