研究課題/領域番号 |
14J00295
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
白神 慧一郎 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | テラヘルツ時間領域分光法 / 水の分子間伸縮振動 / キセノン / 水の構造化 / 水素結合 |
研究実績の概要 |
キセノンが水中に導かれるとキセノン分子の周辺には“構造化した”水分子が現れることが示唆されており,植物細胞中にキセノンガスを圧入すると細胞内の水が構造化することで植物の鮮度の長期間保持が可能になることが報告されている.ここで,テラヘルツ(THz)帯の誘電応答はピコ秒オーダーの動態のみを反映するため,THz分光では水分子間で形成される水素結合を介した水分子の動的振る舞いを定量化できることが示されている.そこで本研究では,THz帯の誘電応答から植物細胞中における水の構造化状態を定量的に見積もるための測定系構築及び解析技術確立を行い,植物細胞中の水⇔生体分子の相互作用の関係性を評価し,植物細胞中における整理状態に関わる水の役割について考察を行う. テラヘルツ(THz)帯の誘電応答は水素結合性自由水の遅い緩和,非水素結合性水分子の速い緩和および水の分子間伸縮振動,水の分子間秤動の4成分から成り立っている.このうち5 THzに位置する分子間伸縮振動は水の水素結合ネッットワーク構造を直接的に反映すると考えられているため,5 THz周辺の水の誘電応答はキセノンの圧入に伴う水分子の構造化を直接的に評価する有効な指標になりうると期待できる.しかし一般的なテラヘルツ時間領域(THz-TDS)分光測定では3 THzより高周波側の分光情報を得ることが困難であるため,当該年度はキセノン圧入時の水の構造化評価に特化した広帯域なTHz-TDS測定系の構築に着手した.パルス幅が10 fsの超短パルスパルスレーザー光を[110]GaP結晶に照射して広帯域なTHzパルス発生を行うTHz-TDS測定系を構築したところ,パワースペクトル上では7 THzにおいても4桁程度の高い信号対雑音比が得られており,0.2~7 THzに及ぶ広帯域なTHz分光を実現することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
THz帯の誘電応答は水分子の動態や構造を直接反映する指標であるものの,水の複素誘電率はブロードな複素感受率成分から構成されているため,水分子の情報を正確に解析するためには広帯域な複素誘電率測定を行うことが必要不可欠である.実際に,一般的なTHz-TDS測定系では~5 THzに位置する水の分子間伸縮振動を観測できないため水分子が形成する水素結合ネットワークの四面体型構造を評価することはできないうえ,測定帯域が狭く解析精度が不十分なため水素結合性自由水の遅い緩和や非水素結合性水分子の速い緩和の複素感受率成分を正確に抽出するのが困難である.そこで平成27年度には7 THzまで測定可能範囲を高周波化させたTHz-TDS測定系を自作したことで,水の分子間伸縮振動を解析することで水分子の水素結合構造を直接評価できるようになったうえ,水分子の動態及び構造の情報を解析する精度も向上させることができた.このような独自のTHz分光システムを用いて今後キセノンを圧入した水の測定を行うことで,キセノンが水の水素結合ネットワークに及ぼす影響をより多面的に評価することが可能になると期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
高周波側(~7 THz)の複素誘電率を安定的かつ正確に測定するためには1フェムト秒以下の時間遅延を厳密に測定る必要がある.植物細胞中で生じる水分子の状態変化を正確かつ安定に測定するために,平成28年度にはより位置精度の高い遅延ステージを導入するとともに,発生したTHzパルスを分岐することでレーザー発振や環境に由来する測定結果の変動を補償できるようにTHz-TDS測定系の改良を行う.また,全反射減衰(ATR)測定によって植物細胞単層のTHz分光測定を行い,平成26年度に確立した解析手法を用いて植物細胞内の水を水和状態と水素結合ネットワーク状態の観点から詳細に評価する.そして最終的には植物細胞にキセノンを圧入してTHz測定を行うデモを行い,キセノン圧入に伴う水和状態と水素結合ネットワーク状態の変化を考察する.
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