研究課題/領域番号 |
14J00299
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
勝田 光 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 読者反応を支援する教師の役割 / 授業形態 / 生徒の学力 / 教室談話の分析 / 創造的な読者反応 / 物語創作課題 / 自由記述 / テキストマイニング |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、生徒にとって充実したリテラシー学習の場となる文学の授業を実現するために、どのような支援ができるのかを明らかにすることであった。そのため、(1)生徒の読者反応を支援する教師の役割はどのようなものか、(2)生徒の創造的な反応を促すための指導方略はどのようなものか、という2つの課題を設定した。 第1の課題について、一斉授業の形態で進められる一連の授業を観察した結果、生徒の読者反応を支援する教師の役割には、1. 文学を読む集団として教室全体を調整する役割、2. 生徒が反応を生み出せるようにする役割、3. 生徒が反応し続けることを励ます役割、4. 生徒の反応を広げたり深めたりする役割、5. 一読者として自分の反応を示す役割、以上5つあることが明らかになった。また、先に観察した教室と授業の進め方や生徒の実態が大きく異なる教室において、学力が低いとされる生徒が教師や他の生徒からどのような支援を受けているのかという観点から授業を観察した結果、12種の支援内容を特定することができた。 第2の課題について、オリジナルの物語を書くために文学的文章を読むという指導方略に着目して、文学的文章を読んだ後に物語を書く実験群と、文学的文章を読んだ後に自分が書いてみたい内容で自由に文章を書いてみるという比較群を設定して実験授業を行った。生徒が書いた文章についてテキストマイニングによる分析を行った結果、物語を書くタイプの方が自由に記述させるタイプよりも記述量が多く、生徒間で書いている内容に違いが大きかったこと、Sipe(2008)が創造的な反応として示した友人を物語に登場させて解釈を行う反応とほぼ同様の反応が確認できたこと、以上2点により、オリジナルの物語を書くために文学的文章を読むという指導方略が生徒の創造的な読者反応を促す上で効果的であると結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
事前の計画通りに2つの調査を実施し、その成果が論文採択されたことに加えて、先の調査に残された課題を踏まえて追加調査を行い、その成果が発表受理された。
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今後の研究の推進方策 |
現在まで、(1)「生徒の読者反応を支援する教師の役割」、(2)「生徒の創造的な読者反応を促す指導方略」という2つの課題を設定して研究を行ってきた。今後の研究の推進方策も、この2点に即して述べる。第1の課題に関して既に実施済みの2つの調査データを同じ枠組みのもとで比較分析を行い、その結果を7月17日から20日にかけて開催されるInternational literacy associationにてポスター発表する。その後、 同学会の学術雑誌Journal of adolescent & adult literacyに投稿する予定である。すでに個別の分析は終わり、1つの調査データの分析結果については、全国大学国語教育学会の学術誌『国語科教育』に投稿し、採択されている。しかし、2つの調査データは、授業形態が大きく異なっていたため(1つは一斉授業の形態、もう1つは小グループでの活動が中心)、両方のデータを同じ分析枠組みで分析することができないでいた。本年度は、質的研究における分析手法「事例-コード-マトリックス」(佐藤,2008)を参考にしてQDAソフトを用いながら、これら2つの調査データについて比較分析を行う予定である。第2の課題に関しては、昨年度実施した実験授業において、比較群の設定の仕方にいくつかの問題があったと考えられる。比較群として設定した「自分が書いてみたい内容で自由に書く」タイプの授業が、調査者が想定した以上に生徒の反応が悪かったためである。そこで、比較群の授業デザインを見直した上で、あらためて自分でオリジナルな物語を書くために文学的文章を読むという指導方略の効果を検証するための実験授業を行うこととする。また、すでに中学校1、2、3年生を対象に実験授業を行っているため、小学校1年生から6年生を対象に実験授業を行い、文学的文章に対する「創造的な反応」について学齢の観点からも検討していく予定である。
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