本年度は、これまでに行った5つの調査から得たデータを再分析した上で、個々の調査から得た知見を総合し、博士論文『中学生の書く行為に着目した国語科における読者反応の支援』にまとめた。 教師の役割を中心とした教室の読書の支援のあり方について、Ruddell & Unrau (2004) の教室の読書モデルに即して次のことを明らかにした。まず、(1)教師が多様な役割を演じることができず、(2)「読み書きが苦手」な生徒に対する適切な支援がなければ、「教師やクラスメイトと意味交渉し、それを生かして新たな文章を書く」という教室の読書行為が成立しない可能性が高いといえる。この意味交渉過程における教師の役割の多様性は5つに大別できるが、それは固定された5つの役割として独立するのではなく、生徒とのやり取りの中でダイナミックに変化する性質を持つ。また意味交渉を生かして新たな文章を書く過程における支援は、情緒面、形式面、内容面、以上3つのカテゴリーに大別できる。これら3つの中、量的には感想文の形式面や内容面に関する支援に比べて少なかったにも関わらず、生徒の情緒面に関する支援が観察対象とした生徒の発話やワークシートの記述から極めて重要だったことが分かった。 指導過程に創作的な文章を書く活動を位置づけることの効果は、1人ひとりの生徒が異なった意味を作り出す読書行為を促す点にあると結論づけた。本来、読書には文章を分析したり必要な情報を取り出したりする側面だけでなく、本を読むこと自体が楽しいという側面が含まれる。しかし、国語科を中心とした教室の読書は、自由に楽しく読む側面よりも、分析や必要な情報の取り出しという側面が強調されがちである。他の生徒と異なる内容で文章を書くことを促し、登場人物を誰にするかなど自由な「遊び」の要素が含まれる物語創作課題は、このような実態を改善し、読書の楽しみを促す支援になると言える。
|