研究課題/領域番号 |
14J00322
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山田 規子 北海道大学, 理学, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 渦鞭毛藻 / 色素 / 細胞内共生 / 多様性 / 進化 / 珪藻 / 共同研究 / 国際研究者交流 |
研究実績の概要 |
渦鞭毛藻は、真核生物の中で唯一、複数の生物由来の葉緑体を持つ。これまでに紅藻、ハプト藻、緑藻、珪藻に由来する4つの葉緑体タイプが確認されており、これは渦鞭毛藻が葉緑体を何度も獲得・消失した結果である。 本研究は新種の渦鞭毛藻(Yamada et al. 2013a)からクロロフィルaの分解産物cPPB-aE(132,173-cyclopheophorbide a enol)が検出されたことに始まる。光合成生物からcPPB-aEが報告されたのは初であったこと、新種の渦鞭毛藻が砂地にすむベントス性種だったことから、生態型(生息地と生活形態:プランクトン/ベントス)が色素の生成に影響を与えていることが推測された。そこで渦鞭毛藻の葉緑体の獲得や生理的機構に生態型が影響するのかを検証するため、世界各地から採集した40種45株について、生化学的、分類学的な実験とクラスター解析を行った。 本年度は(1)HPLC分析により生態型ごとに渦鞭毛藻の色素組成が異なっていること、特に砂地にすむベントス性渦鞭毛藻に特異的な色素群が存在することを発見している。本研究はYamada et al.(2013b)の他、さらに一本を申請者が筆頭著者としてunder revision中である。(2)(1)で検出された、砂地にすむ渦鞭毛藻特有の色素のいくつかはLC-MS分析の結果、Halocynthiaxanthin 3’-acetateとその光学異性体等の可能性が高いことがわかった。これはこれまで光合成生物からの報告がない色素である。さらに(3)分子系統解析から珪藻タイプの葉緑体を持つ渦鞭毛藻は、生態型に応じて共生珪藻を別の種に入れ替えていることが明らかにされている。本研究は現在投稿論文の準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は大まかに3つに分かれ、そのうち完了しているものは(1)である。 (1)40種45株の渦鞭毛藻についてHPLCによる微量な色素を含む厳密な色素分析をし、さらに生態型と色素組成に関連性がないかクラスター解析を行った。その結果、砂地性のベントス性渦鞭毛藻だけがもつ色素群が検出され、渦鞭毛藻が生態型に応答して色素を生成していることが判明した。Yamada et al. (2013b)のほか1本を、現在under revision中である。 (2)(1)で検出された砂地にすむ渦鞭毛藻特異的な色素をLC-MS分析した結果、いくつかの色素はHalocynthiaxanthin 3’-acetateとその光学異性体等の可能性が高いことがわかり、どちらもこれまで光合成生物からの報告がない色素であることが判明した。 (3)40種45株の渦鞭毛藻のうち、6種10株は珪藻タイプの葉緑体を持った渦鞭毛藻(:Dinotom)であった。Dinotomはこれまでに12種類が知られているが培養株が確立されている種は2種のみである。本研究で確立された6種のうち5種は世界初の培養株であり、このことから今後Dinotomにおける実験生物学の発展が期待される。さらに珪藻タイプの葉緑体の起源を明らかにするため珪藻の分子系統解析を行った結果、Dinotomが生態型ごとに共生珪藻を別の珪藻に入れ替えており、4属9種の珪藻がDinotomで葉緑体として使われていることが明らかとなった(Yamada et al. 投稿準備中)。また、本研究で用いたDinotom 6種のうち3種は新種であった(1種は前述のYamada et al.中で新種として記載、他2種も論文投稿準備中)。
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今後の研究の推進方策 |
(1)の研究については、論文の受理を目指し、現在改訂稿の執筆と再実験を行っている。(2)の研究は今後、Halocynthiaxanthin 3’-acetateであるかを日本医科大・高市真一教授のご指導のもとNMRで確認するとともに、この色素の局在をGreen gelもしくはBN-PAGEによって決定する。また異なった光条件で培養した渦鞭毛藻株の光合成活性を測定することによりその機能を類推し、色素の同定と局在・機能の類推の結果をまとめ論文にする予定である。(3)の研究では、共生珪藻の葉緑体ゲノムのフルゲノム解析を行い、渦鞭毛藻と共生珪藻間でどの程度遺伝子の水平移動が起こっているか、さらに現在取り込まれている珪藻はいつ獲得されたものであるのかを推測・考察する予定である。
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