研究実績の概要 |
本研究では, アンドロメダ銀河のハロー領域に発見された, 衛星銀河の衝突の痕跡(アンドロメダストリーム等)等を用いて, 局所銀河群の形成・進化に迫ることを目的としている。アンドロメダ銀河は近傍であるがゆえ, 詳細に観測が行われてきた。理論研究と観測研究を組み合わせることによって, 銀河の形成過程を調べることのできる格好の実験場である。 詳細に観測されたアンドロメダストリームには, 特徴的な東西非軸対称の内部構造が存在しており, その構造はN体シミュレーションを用いた先行研究では再現されてこなかった。多くの先行研究では簡単のため, 衝突した矮小銀河を球状の銀河として仮定していたが, 本研究ではその特徴的な内部構造の成因として, 矮小銀河の形態に着目し, 矮小銀河のモデルとして円盤矮小銀河を想定した。衝突時の矮小銀河の円盤の傾きが衝突後の分布に大きく影響するため, 全体で2000衝突モデルを超える大規模なパラメータサーチを必要とした。筑波大学計算科学研究センターに設置されているスーパーコンピュータT2K-Tsukuba, HA-PACS, COMAを用いた大規模シミュレーションの結果として, 観測されるアンドロメダストリームの特徴的な非軸対称構造を説明するためには, 衝突した矮小銀河の回転が重要であること, また初期の円盤の傾け方に対する制限が得られた。加えて, 先行研究での最大粒子数よりも1桁以上大きな約800万粒子で矮小銀河を表現した高精度の銀河衝突シミュレーションにより, アンドロメダストリームの金属量勾配や壊された矮小銀河の中心コアの観測可能性, 新たな扇型の星分布といった示唆を与えた。これらの構造に対する今後の観測が期待される。 この成果については, 局所銀河群や銀河の形成・進化に関する国内外の研究会で発表を行った。また, 成果を論文にまとめ査読付き学術論文誌に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究の主要な進展として, アンドロメダ銀河と矮小銀河との衝突の痕跡と矮小銀河の内部構造との間との関係を詳細に調べた論文をまとめ, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society(MNRAS)に投稿した。 本研究中で, 先行研究での最大粒子数よりも1桁以上大きな約800万粒子で矮小銀河を表現した高精度の銀河衝突シミュレーションを行った。この数値シミュレーションによりアンドロメダストリームの金属量勾配や壊された矮小銀河の中心コアの観測可能性, 新たな扇型の星分布といった示唆を与えることができた。特に金属量の分布に関する解析は当初の予定外の複雑な解析であったが, 将来の観測に期待される重要な示唆を与えた。 本研究成果については国内の研究会のほか, 8月にホノルルで3月にスペインで行われたIAUシンポジウムにおいて発表を行った。また, 国際会議期間中には研究に必要な情報収集を行った。とりわけ局所銀河群の形成・進化に係る最新の研究と展望に対する情報を集め, 平成28年度の研究にも取り入れていく予定である。 また, 本研究を行う過程で, 銀河の恒星ハローの密度構造・速度構造に関わる新たな知見を深めることができた。さらに詳細な物理を調べるために, 追加の大規模数値シミュレーションを行う準備を行い, スーパーコンピュータを用いた大規模計算を始めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方針としては, 銀河の恒星ハローに関する大規模シミュレーションを行う。銀河の恒星ハローは進化の時間スケールが長く, 銀河の形成と進化を理解する良いツールとなる。当初の計画とはずれるが, 恒星ハローの中心からの距離に対する密度分布や, その形成過程を明らかにすることで, 局所銀河群の銀河であるアンドロメダ銀河や天の川銀河の階層的構造形成に基づく進化史を明らかにできる可能性があるため目的には沿っている。 現在Pan-Andromeda Archaeological Survey (PAndAS)による測光観測データによりM31恒星ハローの密度分布に関しての情報が得られつつある。また, 現在稼働中のHyper Suprime Cam(HSC)やGaiaにより天の川銀河・アンドロメダ銀河をはじめとする近傍銀河の恒星ハローの密度構造・速度分布が詳細に観測されることが期待される。恒星ハローの起源に関わる理論的な理解を進めておくことは将来の観測データを理解するうえで非常に重要である。 27年度の国際会議期間中でも本研究に必要な情報収集も行っており, 得られた情報は28年度の研究にも取り入れていく予定である。
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