研究課題/領域番号 |
14J00356
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
上野 幹憲 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
キーワード | アルギン酸 / アルギン酸オリゴマー / 一酸化窒素 / サイトカイン / RAW264.7 / アルギン酸リアーゼ |
研究実績の概要 |
海藻由来の多糖体には様々な生物活性を有することが報告されている。しかし、季節や種類によって多糖体を構成する糖の種類や含有量が変化し、再現性に乏しい。そこで、褐藻類に含まれるアルギン酸に着目した。アルギン酸はα-L-グルロン酸とβ-D-マンヌロン酸から成る酸性多糖体である。アルギン酸は動物細胞のマウスマクロファージ株細胞であるRAW264.7細胞に対しサイトカインを放出誘導することが報告されている。そこで、グルロン酸とマンヌロン酸をそれぞれ分離し、アルギン酸の構造活性相関を明らかすることを目的とした。現在、グルロン酸及びマンヌロン酸を分離し、アルギン酸特異的分解酵素であるアルギン酸リアーゼによりそれぞれをオリゴマーにし、さらにゲルろ過クロマトグラフィーにより2-6量体のオリゴマーを得ている。これらのオリゴマーを用いてRAW264.7細胞に対する生物活性を調べていく予定である。 アルギン酸は酵素分解することによりRAW264.7細胞に対し、分解前のアルギン酸よりもサイトカインを強く放出することが知られている。そこで、免疫の指標となる一酸化窒素の放出誘導に対する影響を調べた。アルギン酸オリゴマーでは分解前のアルギン酸よりも有意に高く一酸化窒素を放出した。また、アルギン酸オリゴマーで刺激したRAW264.7細胞内の誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)のmRNA及びタンパク質発現が強いことを観察した。また、転写因子であるNF-κBの核内移行も確認した。これらのことから、アルギン酸は酵素分解によってオリゴマー化することにより、一酸化窒素を強く放出誘導することを明らかにした。 高脂肪食投与マウスへのアルギン酸オリゴマーの抗肥満効果を検討した。アルギン酸オリゴマー投与により肝臓の中性脂肪量及び体重の減少、内臓脂肪の蓄積が抑制され、アルギン酸オリゴマーには抗肥満効果を有することを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グルロン酸及びマンヌロン酸のオリゴマーの精製は順調に進んでおり、必要量を確保した後、RAW264.7細胞を用いてアルギン酸オリゴマーの構造活性相関を調べていく予定である。また、アルギン酸を酵素分解により得られるアルギン酸オリゴマーはRAW264.7細胞に対してサイトカイン同様、一酸化窒素も強く放出誘導することを見出し、アルギン酸オリゴマー化することによりアルギン酸の免疫調節活性を高めることが期待され、この知見は今後の研究に役立つものと考えている。なお、アルギン酸オリゴマーの一酸化窒素放出誘導の結果は国際学術雑誌に投稿中である。 また、アルギン酸オリゴマーの応用的利用を目的とし、アルギン酸オリゴマーは高脂肪食投与マウスへの抗肥満効果をもつことを明らかにした。工業的に主に利用されているのはアルギン酸であり、アルギン酸オリゴマーの有用な利用法を見出したと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
グルロン酸及びマンヌロン酸の2-6量体のオリゴマーを得ており、RAW264.7細胞に対する生物活性をこれまでの研究成果に基づいて行っていき、アルギン酸の構造活性相関を明らかにしていく予定である。RAW264.7細胞をそれぞれのオリゴマーで刺激し、サイトカインやNO量を調べていく。また、オリゴマーを認識している受容体に対する特異的抗体を用いて候補を絞る。その後、標的受容体をノックダウンしたマウスを用いてオリゴマーを認識している受容体を明らかにする。また、アルギン酸オリゴマーには植物プランクトンであるクラミドモナスに対し増殖促進作用を有することが報告されているが、その増殖促進機構は明らかでない。そのため、アルギン酸オリゴマーのクラミドモナスに対する増殖促進機構に関わる細胞内情報伝達経路を解析する。アルギン酸オリゴマーにより刺激されたクラミドモナスの増殖に関わるタンパク質をプロテオミクス解析また、遺伝子発現をリアルタイムPCRなどで調べていく予定である。
|