研究課題
褐藻類に含まれるアルギン酸はα-L-グルロン酸とβ-D-マンヌロン酸の二つの糖から成る酸性多糖体である。アルギン酸は高分子であるため粘性が非常に強く,カルシウムなどの二価の陽イオンの存在下ではゲル形成能をもつ特徴を有する。アルギン酸リアーゼはアルギン酸の分解酵素であるが,これにより得られる低分子化されたアルギン酸オリゴマーは粘性が非常に低く,ゲル形成能を示さない特徴を有する。このアルギン酸オリゴマーはRAW264.7細胞に対して,一酸化窒素やサイトカインであるTNF-αを有意に高い放出誘導を示すことを見出している。アルギン酸オリゴマーは動物細胞のみならず植物細胞に関与し,種苗生産の現場で用いられる海洋性植物プランクトンであるナンノクロロプシス(Nannochloropsis oculata)やキートセロス(Chaetoceros gracilis)はアルギン酸オリゴマー添加により増殖が促進される。また,淡水性植物プランクトンであるクラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)でもアルギン酸オリゴマー添加により増殖促進が観察されている。アルギン酸オリゴマーのさらなる生物活性の探索として,クラミドモナスに対するアルギン酸オリゴマーの銅イオンストレスの軽減効果を検討した。アルギン酸オリゴマーはクラミドモナスに対し濃度依存的に増殖促進を示した。また,アルギン酸オリゴマー存在下で細胞周期に関わるサイクリンBの遺伝子発現が上昇した。クラミドモナスは銅イオンストレスにより有意に増殖が悪化したが,アルギン酸オリゴマー添加により,濃度依存的に増殖が改善された。また,銅イオン存在下では細胞内の活性酸素が上昇するが,アルギン酸オリゴマー添加により有意に細胞内の活性酸素の上昇が抑えられた。以上の結果から,アルギン酸オリゴマーはクラミドモナスの増殖を促進すると共に銅イオンストレスを軽減することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
アルギン酸オリゴマーはクラミドモナスに対し増殖促進の他に,銅イオンストレスを軽減することを明らかにし,アルギン酸オリゴマーの新たな生物活性を見出した。
アルギン酸オリゴマーのクラミドモナスに対する銅イオンストレス軽減効果を明らかにしたが,そのメカニズムは不明である。今後の研究の推進方策として,抗酸化酵素の遺伝子発現にアルギン酸オリゴマーが関与していることを明らかにしており,これら遺伝子群を中心に解析を行う。加えて,銅イオンストレスにより発生する細胞内の活性酸素の局在を解析することにより,銅イオンストレス軽減効果のメカニズムを明らかにする。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
巻: 80 ページ: 811-817
10.1080/09168451.2015.1116929
Bioactive Carbohydrate and Dietary Fibre
巻: 7 ページ: 1-8
10.1016/j.bcdf.2016.02.001
巻: 79 ページ: 1787-1793
10.1080/09168451.2015.1052768