研究課題
銀河進化のプロセスを解明する事は、近代の天文学において最も重要な課題のうちの一つである。近年では、ほぼ全ての銀河中心に超巨大ブラックホールが存在することが明らかになってきている。また、ブラックホール (Black Hole: BH) 質量とそれを含む銀河(母銀河)の基本的な物理量(銀河全体の明るさや星質量、星の速度の分散値など)との間に強い相関がある事も観測と数値シミュレーションの両方から知られはじめている。この二つの事実は銀河とブラックホールが互いに影響を及ぼし合いながら成長してきた事を示唆しており、銀河進化の解明の示準となる物理量として BH 質量が注目されている。本研究では、近傍銀河で観測できる分子ガスの運動を使って力学的に BH 質量を求める手法を確立し、より多くの天体で BH 質量を導出する事を短期的な目的としている。平成27年度にはアタカマミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)を用いて近傍銀河 NGC 1097 を観測したデータを使い、BH 質量を導出した結果とそれに至るまでの議論を論文にまとめ、出版した(Onishi et al. 2015)。これにより、近年の電波干渉計によって観測される分子ガスの速度場から BH 質量が導出可能である事を示すことができた。また、この手法における問題点や改善すべき箇所を指摘し、さらにこの手法が晩期型銀河におけるBH 質量の導出においても有用であることを世界で初めて報告した。さらに、我々に対して先行研究を行った研究グループのメンバーの一人である、イギリス・オクスフォード大学の Martin Bureau 氏のもとを2015年9月-11月と2016年1月-2月の二回に分けて訪れた。本研究に関する共同研究として、新たに近傍銀河 NGC 3665 について、観測された分子ガスの運動状態を説明する質量分布を求める手法で、出版した論文からさらにフィッティング法を発展させた手法を用いて BH 質量の導出を行い、論文にまとめて投稿した(Onishi et al. submitted)。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、近傍銀河 NGC 1097におけるアタカマミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)によるブラックホール質量の導出研究に関する論文を出版した(Onishi et al. 2015)。また、イギリス・オクスフォード大学の Martin Bureau 氏との共同研究を前年度に引き続き推進し、さらに発展させた手法を用いて、近傍銀河 NGC 3665 におけるブラックホール質量導出を行った結果を論文にまとめ、投稿した(Onishi et al. submitted)。これらの研究と、先行研究で近傍銀河 NGC 4526 のブラックホール質量を導出した Davis et al. (2013) の3つにより、分子ガスの運動学を使ってブラックホール質量を求める手法が、様々な進化段階の銀河について適用可能である事が示された。本手法に関して改善すべき点や結果のエラーを大きくする要因などの議論は申請者の出版した論文(Onishi et al. 2015)において世界で初めて論じられており、さらに申請者が新たに投稿した論文(Onishi et al. submitted)では本手法をさらに一般化させたため、申請者は本手法の確立を行ったと言える。さらに、本研究に関する口頭発表を4つの国際研究会で行い、様々な研究者に成果を知ってもらうと共に、多様な議論を交わす事ができた。さらに、Bureau氏のグループとの共同研究をさらに推進させる事もできた。具体的には、Bureau氏のグループが占有するデータで、近傍銀河 NGC 4429における分子ガスの運動の様子をALMA望遠鏡で観測したものを解析し、そこからブラックホール質量を求めた。現在この結果を含めた論文を作成中である。ここまでで合計3つの天体について、本研究で確立させてきた手法を適用し、ブラックホール質量を導出した。これらの研究結果を受けて2016年4月には、所属機関である総合研究大学院大学から未来科学者賞を受賞する事ができた。以上の点を踏まえて、研究は計画通り進展していると考える。
銀河とブラックホールの共進化の指標とされている、ブラックホール質量と母銀河の物理量(銀河全体の明るさや星質量、中心部分の速度分散など)との相関関係をさらに明らかにする目的で、分子ガスの運動学を使ってより多くの銀河中心のブラックホール質量を導出する事が、本研究の短期的な目標であった。平成27年度は、ブラックホール質量導出法として比較的新しい手法である、分子ガスの運動学を使ってブラックホール質量を求めるという手法の確立を行い、2つの天体にそれを適用した。今後は、1)現在解析中であるデータに同手法を適用してブラックホール質量を導出する事と、2)ここまでで導出してきたブラックホール質量が、ブラックホール質量と母銀河の中心部分の速度分散との相関関係(M-σ関係)の中でどのような位置づけとなるかを議論する事の二つを行い、これまでの研究結果とまとめて、博士論文を作成する。具体的な推進方策として、本手法が適用された銀河の種族が棒渦巻き銀河(NGC 1097; Onishi et al. 2015)と楕円銀河(NGC 3665; Onishi et al. submittedとNGC 4526; Davis et al. 2013)である事から、現在解析中である渦巻き銀河(NGC 4429)にも同手法を適用できる事を示し、様々な形態の銀河でブラックホール質量導出が可能である事を示すものとして論文を発表する。さらに、これまでの結果がそれぞれの精度の範囲内で、既知のM-σ関係にどれだけ沿うかを議論する。また、アタカマミリ波サブミリ波大型干渉計(ALMA)の発達に伴い本手法を適用できる銀河がさらに増えてくることから、どのような物理量に起因するエラーがブラックホール質量に影響するかを精査し、より精度の高いブラックホール質量導出を目指して手法の改良を行う。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件) 備考 (3件)
The Astrophysical Journal
巻: 806 ページ: 39, 46
doi:10.1088/0004-637X/806/1/39
Astronomical Society of the Pacific Conference Series
巻: 499 ページ: 161, 162
http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/news/pressrelease/201506187684.html
https://www.soken.ac.jp/news/20240/
http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/news/alma/2016/0509post_650.html