研究課題/領域番号 |
14J00370
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
清水 康司 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 酸素分子 / ダイナミクス / 密度汎関数理論 / アルミニウム / 表面・界面 / 解離吸着反応 / 剥ぎ取り反応 / 回転励起 |
研究実績の概要 |
本年度は、アルミニウム(111)表面上に飛来した酸素分子の解離吸着反応に関する研究を行った。 まず、第一原理電子状態計算を援用し、酸素分子-アルミニウム(111)表面系に対するポテンシャルエネルギー曲面の算出を行った。そこでは、分子-表面系の6自由度を考慮した。その結果、分子配向が表面に対して平行である場合、酸素分子の解離吸着反応に対して活性化障壁が存在しないことが分かる。一方、分子配向が表面に対して垂直であり、酸素分子が表面トップサイト近傍に飛来した場合には、約1.5 eVの大きな活性化障壁の存在を示した。さらに、分子配向が表面に対して傾いており、表面側の酸素原子が表面トップサイト近傍に飛来した場合にも同様に、活性化障壁が存在していることを明らかにした。 次に、上述のような分子配向に対して強い異方性を有する多次元ポテンシャルエネルギー曲面上での酸素分子の運動を取り扱った。ここでは、分子の回転状態を考慮した量子ダイナミクス計算を行った。入射分子の分子配向が表面に対して平行である場合には活性化障壁が存在しないため、吸着確率が高いことがポテンシャルエネルギー計算から予測される。しかしながら計算結果からは、上記の配向依存性の強いポテンシャルエネルギー曲面上で分子の回転状態が高く励起することで、高い確率で活性化障壁に衝突し反射されることを見出した。本研究で示した低い吸着確率は、従来までの古典的なダイナミクス計算では得られなかった描像である。 これらの成果を、European Conference on Surface Science 30等の国内外の学会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸素分子の表面散乱過程においてまず、第一原理電子状態計算により分子配向依存性が非常に強いことを見出した。酸素分子の解離吸着反応に対する、分子配向や表面吸着サイトの反応の依存性に対してこれまで議論されることはほとんどなかった。さらに、得られた分子配向異方性の強いポテンシャルエネルギー曲面をもとに、分子の回転運動に着目した量子ダイナミクス計算を行った。その結果、酸素分子は回転エネルギーが小さいため、本研究で取り扱っている表面においては、回転状態の励起・脱励起が非常に起こりやすいことを見出した。この回転状態の変化は酸素分子の入射並進エネルギーの大きさとも相関があり、入射エネルギーが小さい場合において顕著に現れることを示した。また、分子振動や表面振動といった運動の自由度を加えた計算も行っており、多数の要素が絡み合った興味深い現象が見出されると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、これまで考慮していなかった酸素分子の運動の自由度を加えた高次元のダイナミクス計算を行う。分子配向に対するポテンシャルエネルギー曲面が強い異方性を持ち、その量子ダイナミクス計算にから、酸素分子の表面散乱はポテンシャルエネルギー曲面から単純に予測されるものとは異なった結果が得られることが分かった。また、分子配向依存性に加えて、表面吸着サイト依存性によるコルゲーションも強いことが分かっている。そこで、分子の回転運動や並進運動、振動運動、さらには表面の振動運動などの多数の要素が複雑に絡み合った状況での散乱過程を明らかにする。 また、これまで取り扱ってきた断熱過程における酸素分子の散乱に加えて、分子-表面間の電子遷移や酸素分子のスピン状態が解離吸着反応に影響を与えることが予測される。そこで次年度においては、非断熱過程を考慮に入れたダイナミクス計算を行い、現象のより詳細な理解を得る。
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