研究課題
本研究課題では微生物間コミュニケーションを利用した排水処理効率の向上を目指し、ミクロ領域での微生物間コミュニケーションを解析することで微生物の代謝を直接制御する技術の構築を最終的な目的としている。初年度である本年度は「実際の培養条件下における活性汚泥中の微生物間コミュニケーションの時空間的な可視化技術の構築」を目的として研究を行ってきた。・シグナル物質検出株を用いた微生物集団内部における微生物間コミュニケーションの可視化シグナル物質を受容すると蛍光タンパク質を発現するシグナル物質検出株を実環境サンプルに定着させることで、実環境サンプル中における微生物間コミュニケーションの可視化を試みた。まず、当研究室保有の遺伝子組み換え技術によりシグナル物質検出株を作製し、これを実環境サンプルと共培養することで、シグナル物質検出株を実環境サンプルに定着させることに成功した。その後、培養条件の検討によりサンプル中のシグナル物質検出株が発現した蛍光タンパク質を、顕微鏡観察によって検出することに成功した。以上により実環境サンプルにおける微生物間コミュニケーションの可視化に成功した。本技術は活性汚泥だけではなく自然界に存在する様々な微生物間コミュニケーションの解明に応用できる強力なツールである。・PDMS流路を用いた微生物集団の培養ミクロ領域での微生物間コミュニケーションを解析するためには微小スケールでの実験が必要とされる。そこで、フォトリソグラフィーによるパターン形成技術により、生体毒性が低いPDMSに微小流路を作製した。本デバイスに微生物集団を定着させるために、様々な培養条件を検討した所、微生物集団の流路内への定着に成功した。本技術と上記の可視化技術を組み合わせることで、ミクロ領域下での微生物間コミュニケーションの解析が可能となる。
1: 当初の計画以上に進展している
遺伝子組み換えによるシグナル物質検出株の作製および実環境サンプル中における微生物間コミュニケーションの検出・可視化が、当初計画していた期間よりも短期間で成功した。特に実環境サンプル中における微生物間コミュニケーションの検出・可視化は前例のない技術であったために、検出条件の検討に時間がかかることが予想されていた。しかしながら、予想よりも短期間で微生物間コミュニケーションの検出・可視化に成功した。これは自然界において微生物間コミュニケーションが普遍的かつ活発に行われている可能性を示唆している。微生物間コミュニケーションの可視化技術の構築が計画より早く達成されたため、2年目に予定していた微細加工技術の習得およびPDMS流路の作製に取り組むことができた。微細加工技術の習得は書籍の検索および該当技術を保有している研究室でご指導いただいた。異分野の技術ではあったがすでに技術を習得し、PDMSに微小流路を作製することに成功している。さらに、この微小流路内に微生物集団を定着させる条件検討を終わらせている。これは2年目の初期に実施予定の実験であり、当初の計画以上に進展していると考えられる。
本研究課題の2年目はミクロ領域下での微生物間コミュニケーションを解析することを目標として設定している。すでに微生物間コミュニケーションを可視化するツールの開発に成功し、さらにミクロ領域下での微生物集団の観察を可能にするデバイスの作製にも成功している。今後は上記の技術を組み合わせることで、ミクロ領域下での微生物間コミュニケーションを解析する予定である。限定された空間内に閉じ込められた微生物集団において、シグナル物質検出株の蛍光タンパク質を経時的かつ空間的に検出することで、微生物集団内部におけるシグナル物質の挙動を観察・解析する。現在予想されている問題点としては、微生物集団の大きさのコントロールである。解析するにあたり、微生物集団の大きさを一定に保つことが理想的ではあるが、現在扱っている実環境サンプルに含まれる微生物集団の大きさにはばらつきが見られる。そこで、大きさを制御しやすい微生物集団を人工的に構築し、シグナル物質検出株を定着させることで、微生物集団内部におけるシグナル物質の挙動を観察・解析する対応策を考えている。
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Applied and Environmental Microbiology
巻: 81(8) ページ: 2808-2818
10.1128/AEM.04220-14.
化学と生物
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