研究実績の概要 |
初年度の研究から、研究代表者は分岐鎖アミノ酸の一つであるロイシンが mTOR シグナル伝達経路を介して、骨格筋の筋線維型や代謝特性に関連する遺伝子の発現を制御する可能性を見出した。次年度の研究では、ロイシン摂取が遺伝子の転写後発現調節を担う短鎖非コード RNA (microRNA, 以下 miRNA) の発現に及ぼす影響について検討することにした(本研究は、米国パデュー大学 Dr. Timothy Gavin との共同研究として実施した)。 マウスへのロイシン経口投与 (135mg / 100g B.W.) は、投与前と比較すると、遅筋であるヒラメ筋おいて miR (1,133a/b) 及び前駆体である pri-miR133a の発現量を増加させた。一方、速筋である長趾伸筋では、ロイシン投与は miR (206, 208b, 499b) の発現量のみ有意に増加させた。これらから、ロイシン投与が miR の発現に及ぼす影響は遅筋と速筋で異なると考えられる。次に、 Mlc-mTOR-/- マウスを作製し、その表現型を確認した。先行研究の結果 (Risson, J. Cell Biol., 2009) と同様に、Mlc-mTOR-/- マウスでは筋萎縮と遅筋の特性に関連する遺伝子群 (Cox7, Myogloblin) の発現が減少していた。このマウスを用いて、生体レベルで mTOR 経路が miRNA の発現に及ぼす影響について調べることにした。qRT-PCR の結果、Mlc-mTOR-/- マウスのヒラメ筋、長肢伸筋の両筋肉中で miR133a 、前駆体である pri-miR133a の発現量が減少していた。即ち、mTOR 経路が miR133a の発現・成熟に影響を及ぼすと考えられる。MiR133a 欠損マウスの骨格筋では、ミトコンドリアの機能不全やそれに伴う筋疾患が報告されている (Liu, J. Clin. Invest., 2011)。即ち、ロイシン摂取によるmTOR 経路の活性化が miR133a の発現を介して、骨格筋中のミトコンドリアの恒常性を維持している可能性が示唆された。
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