研究課題/領域番号 |
14J00402
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
河口 理紗 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | RNA二次構造予測 / イントロン / 一塩基多型 / 並列化 |
研究実績の概要 |
本研究ではRNA二次構造予測をゲノムワイドに行うことができるアルゴリズムParasoRの開発を行った。ParasoRにおいては動的計画法の行列値を隣接した値との差分の状態で保存しておくことで、長い配列に対しても桁あふれなく二次構造を計算することができる。さらに差分の値にすることで複数の計算ノードに分割した並列計算を適用することが可能になり、mRNAやpre-mRNAなどの長い配列においても、配列全体で矛盾のないグローバルな二次構造を高速に計算することができるようになった。
長鎖RNAに対する二次構造予測の既存手法ではMFE構造と呼ばれる最安定構造や平均化された塩基対結合確率を、スライディングウィンドウを利用して近似的に計算する。そこでParasoRと既存の二次構造予測ソフトウェアの精度をシス制御配列と次世代シーケンサーを利用した構造解析結果を用いて評価した。その結果、ParasoRによって構造集合全体のセントロイド構造を予測することによって、シス制御配列予測を高精度に行えることがわかった。また次世代シーケンサーの構造解析結果については、既存の手法に匹敵する精度で塩基対を形成する部分の予測が可能であった。さらに構造解析に関してリードの最小カバレージに関する閾値を設定することで、実験の信頼性の高い領域を抽出したところ、それらの領域ではAUCで0.7から0.8程度の高い精度での予測に成功していることがわかった。
ParasoRアルゴリズムをヒトとマウスのゲノム及び転写物に対して適用したところ、転写領域の特にイントロン部分において遺伝子間領域よりも有意に二次構造的な安定性を示すことがわかった。さらにスプライシングによって塩基対は減少する方向に変化することがわかり、このような構造変化はスプラシング効率やRNAの分解耐性など生物学的な機構の調整の一端を担っているの可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、ゲノムワイドRNA二次構造予測ソフトウェアParasoRの精度評価、及びそれを利用したゲノム上に存在する二次構造的な制約に関するさまざまな統計解析を行った。精度評価においては二種類のデータセットに対して精度を調べた結果、既存手法に十分匹敵する精度を示すことがわかった。さらにParasoRにおいては塩基対結合確率以外の様々な二次構造的な指標を計算可能であり、これらの事実からParasoRの優位性が十分に存在するということを示すことができたと考えられる。ParasoRソフトウェア及びゲノムワイド二次構造解析の結果については、現在論文誌への採録が決定している。
また今年度の後半では、ParasoRを利用したRiboSNitch解析に着手した。RiboSNitchは二次構造を大きく変化させる一塩基多型であり、一部のRiboSNitchは実際にRNA結合タンパク質などの結合効率を大きく変化させることがわかっている。そこで複数の実験手法により既に確認されたRiboSNitchの周囲の二次構造情報をParasoRを用いて予測したところ、その情報を用いることで高い精度でRiboSNitchとそれ以外を識別できることがわかった。
さらにシンシナティ大学においてマウスのグリオブラストーマにおけるRNAの発現解析を行い、腫瘍のグレードの進行に伴ってGTPの産生パスウェイに関連する遺伝子の発現量が変化していくことを明らかにした。この結果はヒトのグリオブラストーマとも相関が見られ、進行の早いグリオブラストーマの進行過程を明らかにする手がかりになるのではないかと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本年度においてRiboSNitchの予測に対するParasoRの精度を様々な条件に関して精査することで、どのような場合に構造予測と実験的に得られる構造情報が一致するかに関する情報を得る。これによってRiboSNitchをより高精度に予測可能なソフトウェアの開発を行う。このソフトウェアを利用することで、非翻訳領域などに存在する一塩基多型や疾患関連SNPに関する網羅的RiboSNitch探索を行う。特に疾患関連SNPのうちRiboSNitchと分類されたものに対しては、さらにRNAタンパク質の結合情報やモチーフ配列の解析を行うことで疾患に寄与するメカニズムを明らかにすることを目指す。
またGTPの産生パスウェイががん代謝において果たす役割に関して本年度研究を行ったが、GTPはアミノ酸の結合に必要なエネルギー分子であり、またrRNAの存在量と正の相関を持つため、その産生効率の変化はmRNAの翻訳効率を大きく変化させると考えられる。そのため、これまでmRNAの翻訳効率と関連があると考えられて来たコドン頻度やRNA二次構造などの因子に加えて、GTPなどのエネルギー分子の存在量の統合的な解析を行うことで、RNAの転写後制御解析に新たな視点を与えられることが期待される。
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