妊娠には、母体-胎児間の物質交換の要である胎盤の形成や、妊娠中の正常血圧の維持といった、「血管」の機能が特に重要である。そのため、血管機能の破綻は、重篤な妊娠時疾患を引き起こすと考えられるが、妊娠時における血管機能の制御因子は全く明らかにされていない。タンパク質アルギニンメチル基転移酵素・PRMT1は、標的のタンパク質のメチル化を介して、転写やmRNAのスプライシングを制御することが知られているが、当研究室の先行解析で、血管内皮細胞由来の培養細胞において、PRMT1の発現を抑制すると、管腔形成が促進されることが明らかとなった。このことは、血管内皮細胞のPRMT1が、何らかの機能を有する可能性を示唆しているが、全身でPRMT1を欠損したマウスは胎生初期に致死となるため、生体における血管内皮PRMT1の機能は全く明らかにされていない。そこで私は、血管内皮細胞特異的PRMT1欠損(PRMT1-ECKO)マウスを作製し、胎仔発生期からの表現系の解析を行った。その結果、PRMT1-ECKOの胎仔は、胎生の15日目までに、出血や浮腫を伴って、致死となることが明らかとなった。私は、特に、血管が不鮮明になっているという点に注目し、PRMT1が血管内皮細胞の形態に影響を与えているかを、個体全体で評価することにした。そこで、深部の観察を得意とする多光子顕微鏡を用いることで、胎仔全体の血管構造の可視化を行った。多光子顕微鏡による3次元構造解析の結果、PRMT1-ECKOマウスにおいては、血管内皮細胞が粗になり、管腔が膨潤した形態になっていることを明らかにしている。今後、免疫染色によって、血管機能に関わるようなマーカーの発現を確認することで、機能的な異常がないかについても検討し、血管内皮細胞におけるPRMT1の機能を明らかにしていきたいと考えている。
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