キイロショウジョウバエは、幼虫期の脳内に15個の時計細胞を持つのに対して、成虫羽化後には150個に増加する。しかし、どのようなメカニズムで時計神経が発生するのか、時計細胞ネットワークが変化する生物学的意義は解明されていない。本研究の目標は、概日時計の中枢を構成する細胞ネットワークが幼虫期から成虫期に至る発生過程、すなわち変態期においてどのように(=時計細胞の発生を制御する分子メカニズム)獲得されるのかを解明することを目的としている。 本年度は前年度までに見つけた、時計神経の発生に関わる4遺伝子に関連する他因子、を詳しく解析した。昨年度までに見つけた4遺伝子から、insulin like signaling (IlS)が時計神経の発生に関係していると考え、IlS関連遺伝子をノックダウンしたところ、成虫の時計神経の発生異常が観察された。つまり、IlSが時計神経の発生に関与していることが分かった。また、昨年度から作成したトランスジェニック系統pdf遺伝子上流-GFP個体を使って各遺伝子のノックダウン系統を解析した。その結果、これまで確認されていた各ノックダウン系統における細胞数減少はなく、細胞の存在が確認された。しかし、時計の出力因子である神経ペプチドPDFの発現や時計タンパクCLKの発現が見られないことから、時計神経の時計機能そのものが消失していることが判明した。つまり、私たちが発見した4つの因子は時計神経における時計機能の獲得に必要なものであると示唆された。
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