本研究の目的は、発達性読み書き障害を神経科学的に評価するための基本的知見を提供することである。当該年度は、日本語漢字一文字が左の後頭側頭領域において階層的に処理されていることを示唆した論文が、国際誌(Brain and Behavior)に受理された。この研究は、角や部首、漢字一文字のような階層的構造を持つ刺激に対する脳活動をfMRIを用いて計測し、角、部首、漢字一文字と刺激の階層性が高くなるに従ってピーク部位が後部から前部に移動することを示したものである。発達性読み書き障害において視覚的単語認知が障害されていることは数多く報告されているが、視覚的単語認知が選択的に障害されているのか、それとも視覚システム自体が障害されているのかは明らかにされていない。そこで、これまでに確立した手法を応用することで、視覚システムの階層的処理を測定する手法を確立することを目指した。物体、物体のパーツをランダムに再構成することで構成された偽物体、物体のパーツの断片から構成された人造物体を新たに作成し、fMRIを用いて脳活動を計測した。健常成人を対象とした実験を行い、それぞれの刺激に対する後頭側頭領域の脳活動を確認した。さらに、物体と偽物体の脳活動のピーク部位を確認したところ、物体のピーク部位の方が偽物体と比較して後頭側頭領域内の前部に位置していた。すなわち、上記の手法で視覚処理の階層性を測定可能である可能性が示唆された。これら一連の研究成果は、未だに十分に明らかにされていない発達性読み書き障害の視覚認知障害を神経科学的に評価するための有用な手法として期待ができる。
|