研究課題/領域番号 |
14J00562
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松本 卓也 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | チンパンジー / 母子関係 / 離乳 / 発達 / 幼児期の食物 / 人類進化 / マハレ山塊国立公園 / アカンボウ |
研究実績の概要 |
マハレ山塊国立公園のM集団に属するチンパンジーのアカンボウ13頭の行動データ約320時間分を分析した。まず、授乳量を推定する行動指標として1日の観察時間に占める乳首接触時間の発達変化を分析した。マハレ山塊国立公園において主要な果実であるSaba comorensisが豊富になる時期とそうでない時期を分けたが、発達に伴う時間の増加・減少の明確な傾向はつかめなかった。また、1日の観察時間に占める採食時間割合を同様に分析したところ、概ね月齢が増えるごとに採食時間が増加し、特に3歳前後での増加率が比較的高いことが明らかになった。これらの分析結果は、これまで乳首接触を基準にチンパンジーのアカンボウ期とされてきた4歳以上5歳未満の境界において、乳首接触時間や採食時間が目立って減少・増加するわけではなく、むしろ目立った変化はそれ以前に起こっていることを示すものであり、チンパンジーのアカンボウ期が4-5歳としたときの「ヒトの離乳期の短縮」について、再考する必要があることを示唆するものである。これらの分析結果の一部を国内学会にて発表した。 行動データの分析と並行して、野生チンパンジーの発達に関する情報をレビュー論文にまとめた。また、マハレ山塊国立公園M集団の採食品目データを提供した。これら受理された論文は2015年8月に刊行予定である。また、野生下で初めて観察された、先天的に身体的障害のあるアカンボウが2年近く生き残った事例について情報をまとめ、国際学術誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は野生チンパンジーのアカンボウの行動データを分析した。アカンボウの採食行動のデータを、主に①採食部位、②他個体との同期に着目して分析し、先行研究において主に採食時間の変化(量的変化)に着目されてきた採食行動に関して、食物の性質および他個体との採食行動の同期のしかたの発達変化(質的変化)を明らかにした。この成果は、離乳するまでのチンパンジーの生態学的・発達的側面を明らかにするものであり、研究計画の目的である「食物の量の発達変化」および「他個体の行動に応じた採食行動の調節」について、一定の示唆を与えるものである。 しかしながら、チンパンジーの体毛のDNA分析、および安定同位体分析に関しては、期待通りの研究の進展が無かった。その理由は、行動データをフィールドノートからデータ解析ソフトに入力する時間が当初の計画以上にかかり、ラボワークに割く時間が少なくなったためである。
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今後の研究の推進方策 |
5月末から8月初めまでフィールドワークを行い、行動データにくわえて、アカンボウの採食品目の性質に関する調査を実施する。帰国後は速やかにデータの入力と分析を終える。 1日に占める採食時間の割合、および乳首接触時間割合の月齢変化の分析から、チンパンジーのアカンボウ期とされている4-5歳より以前に、重要な行動上の変化が起こっていることが示唆されており、チンパンジーの体毛を用いた安定同位体分析による実質授乳量の推定はより重要性を増したと考えている。チンパンジーの体毛のDNA分析および安定同位体分析を終えた後、チンパンジーの離乳についてフィールドワーク・ラボワーク両方の成果を併せて議論する。
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