研究課題/領域番号 |
14J00572
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
鈴木 重勝 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
キーワード | クロララクニオン藻 / ヌクレオモルフ / 転写制御 |
研究実績の概要 |
クロララクニオン藻は二次共生によって葉緑体を獲得した生物群である。一般的に二次共生成立過程において、共生者核は消失すると考えられているが、クロララクニオン藻は共生者核「ヌクレオモルフ」を残している。本研究では、二次共生における核、ヌクレオモルフと葉緑体遺伝子の転写制御の進化の理解を目的に研究を行った。 第1年度は、クロララクニオン藻Bigelowiella natansを用いて、ヌクレオモルフゲノムコード遺伝子の発現パターンについて研究を行った。qPCRの結果、葉緑体コードpsbDの発現は、光照射に伴い上昇したが、ヌクレオモルフコードrpoDは明確な発現パターンを示さなかった。更に詳細な発現パターンを明らかにするために、RNA-seqによる発現量解析を行った。RNA-seqによる解析では、光周期に沿って2回の明暗周期を含む13点のmRNAのillumina Hiseqによるシークエンスを行った。その配列の発現パターンを調べたところ、rbcSやLHCを含む光合成関連タンパク質遺伝子の発現は光照射直前に上昇することが明らかとなった。ヌクレオモルフコード遺伝子の発現パターンについては、ほとんど遺伝子において有意な発現量変化が見られなかった。しかしながら、シャペロニンcpn60と機能未知タンパク質をコードするbnatcher2110の2遺伝子のみ有意に発現量が変化していた。両者は共通に5’側の上流配列として、15 bpからなる共通の配列を持っており、ヌクレオモルフゲノムにおける転写制御因子の存在が示唆された。Cpn60はRuBisCOと結合することが知られており、RuBisCOのサブユニットである核コードrbcSはヌクレオモルフコードcpn60と同様の発現パターンを示すために、両者の発現調節に関わる因子の存在が示唆される。 今後は、核ゲノムコード遺伝子についても上流解析を進める予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初はヌクレオモルフにコードされ、葉緑体に輸送される転写制御因子RpoDの発現量の調節によって、葉緑体遺伝子の発現が調節されることを想定していた。しかしながら、qPCR、RNA-seqのいずれにおいても、rpoDを含むほとんどのヌクレオモルフゲノムコード遺伝子の発現調節は起こらないことが明らかとなった。この点で研究計画の一部変更を余儀なくされた。一方、申請時に想定していなかった遺伝子cpn60が特異的に発現調節されていることを見出し、その5’末端に転写調節に関わると思われるモチーフが存在することを明らかに出来た。このことは、ヌクレオモルフ遺伝子の転写制御因子の存在を示唆する初めての結果である。また、当初の計画に加えて、網羅的なRNA-seqデータを用いて、B.natansの核ゲノムにおける全遺伝子モデルの再構築を行った。この新たな遺伝子モデルを用いることで、クロララクニオン藻で未同定の葉緑体、ヌクレオモルフ輸送転写因子の候補を予測できると期待している。これらの点は計画以上に進展した点と言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は主に以下の2点について研究を進めていく予定である。 ①網羅的RNA-seqデータを用いた核、ヌクレオモルフ遺伝子の転写パターンの解析 特異的な発現パターンを示すことが明らかになったヌクレオモルフコードcpn60と、共発現する核ゲノム遺伝子を探索し、in silicoで核とヌクレオモルフの転写制御ネットワークを推定する。また、全核ゲノム、ヌクレオモルフ遺伝子の発現パターンのクラスタリングを行い、遺伝子の機能と転写調節との関係を明らかにする。葉緑体遺伝子については、一部をqPCRによって定量し、核ゲノム遺伝子やヌクレオモルフ遺伝子との発現パターンを比較する。 ②ヌクレオモルフ、葉緑体輸送転写制御因子の推定 新たに再構築した遺伝子モデルを用いて、N末端の疎水性領域の存在によるシグナルペプチドの予測や、他生物の葉緑体輸送タンパク質との相同性などの情報を用いて、葉緑体、ヌクレオモルフそれぞれのプロテオームのリストを作成する。その中から転写制御因子を推定し、遺伝子導入によってその局在を明らかにする。
|