研究課題/領域番号 |
14J00574
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡邉 翼 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | ホウ素中性子捕捉療法 / リポソーム |
研究実績の概要 |
前年度までで作成したリポソームのin vitroでの評価は終えており、今度はin vivoでの腫瘍選択性を調べるために皮下腫瘍埋め込みヌードマウスおよび癌細胞へ結合する膜透過性ペプチドにより表面を修飾したリポソームを作成し動物実験を行った。マウスへそれぞれペプチド非修飾リポソーム、ペプチド修飾リポソームを投与し、正常組織及び腫瘍へのホウ素原子の集積の程度を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いて測定した。結果はペプチド修飾した効果は明らかには認められず、ペプチド修飾したリポソームも非修飾リポソームとほぼ同程度の取り込みしか認められなかった。 in vitroでもin vivoでも腫瘍選択性または腫瘍へのペプチドの膜透過性に問題があることがわかったため、リガンドとして用いているペプチド配列と腫瘍が特異的な受容体を介して結合しうるかを調べた。化学修飾をした磁化ビーズ表面に目的のペプチドを結合させ、ビーズと腫瘍細胞抽出液と混ぜて生理的条件にて結合させた後、磁気分離・洗浄・タンパク分離を行い、ペプチドの受容体の候補たるタンパク質の同定を試みた。しかし、結果は非常に多くのタンパク質が非特異的に同定され、想定していたペプチド配列自体のリガンドとしての性質に問題があることがわかった。原因として立体構造の不安定性が考えられ、ペプチド配列の再考や立体構造を加味したリガンドの設計をする必要があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初まずは磁気分離による方法にて使用する細胞透過性ペプチドの標的を確定し、課題となっていた腫瘍選択性の問題がリポソーム表面へ修飾する際の立体構造の制限の問題なのか、リガンドと標的受容体の親和性または特異性の問題なのかを解明した後に、リガンドペプチドの細胞透過性と標的受容体との相互作用の核となるアミノ酸配列を同定し、アミノ酸配列のさらなる改善を行おうと計画していた。今年度の研究にて、リガンドと標的受容体の特異性の問題であることがわかり、そもそものペプチド配列を見直す必要があることがわかった。従って、次に予定していた細胞透過性と標的受容体との相互作用の核となるアミノ酸配列の同定と、それらの解析をもとにしたより細胞透過効果の高いペプチド構造の検討には至らなかった。 本研究の途中、ペプチド配列と腫瘍細胞のタンパク質との相互作用を解析する実験において、タンパク質・ペプチドと受容体の競合実験から、コントロールとして用いていたこれまで用いられていたホウ素薬剤とその受容体との関係を、ホウ素薬剤の類似体によってあらかじめホウ素薬剤投与前に競合阻害させることでホウ素薬剤の正常細胞と腫瘍細胞の取り込みに差をつけられることが思いもかけずにわかり、こちらに関しては発見した現象を英文誌に採択された。予定通りの実験結果がでないことが多く想定外の結果であったが、実験の過程での発見をまとめられたことはひとつ満足のいくものだった。
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今後の研究の推進方策 |
用いたペプチドの腫瘍特異性・リガンド特異性の問題が生じたため、用いるペプチドの配列を再度検討し直し、腫瘍特異性をだせる配列への変更を行う。またペプチドの立体構造を意識し、環状構造など安定性のある立体構造を用いることで受容体との親和性を高める工夫を行う。 次に作成したリガンド結合ホウ素リポソームの腫瘍特異性のin vitro試験うまく腫瘍組織と正常組織のホウ素分布の差をつけられ有望と判断されれば皮下腫瘍埋め込みモデルマウスを作成し、in vivo試験を行い作成したホウ素リポソームの薬物動態挙動をおさえ、中性子照射の最適なタイミングを明らかにする。その後、京都大学原子炉実験所の中性子照射施設を用いて中性子を照射し、マウスの生存、抗腫瘍効果、およびマウスに観察された有害事象を評価することで中性子の照射の有無により今回作成したリガンド結合ホウ素リポソームのホウ素中性子捕捉反応効果を評価する。また、中性子照射施設のマシンタイムに問題がなければ、薬物動態挙動を調べたマウス検体の腫瘍標本および正常組織標本を作製し、中性子照射を行うことでαオートラジオグラフィーにてホウ素原子のミクロ分布を可視化し、腫瘍の薬剤分布と効果の関係、および正常組織の薬剤分布と有害事象との関係を可能な限り詳細にとらえ、今後の開発の基礎的な前臨床情報が得られる様に努力する。
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