研究課題/領域番号 |
14J00601
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
高橋 謙公 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 中世シチリア王国 / 港湾行政 / 地中海史 / 海事司法 / シャルル・ダンジュー / アンジュー朝 / アラゴン・カタルーニャ連合王国 |
研究実績の概要 |
シチリアと北アフリカ間の海上空間を分析する視座として本年度の研究目的に掲げた港湾研究は、古い研究に依拠したまま、それを無批判に継承している状況であった。13世紀にシチリア王国を支配したシャルル・ダンジューの港湾行政は、R.ツェーノ、L.ジェヌアルディの成果を踏襲したP.コッラオが紹介するにとどまる。そこでは「1266年以前の制度を踏襲し、目立つ変化は見られない時期」と評価されてきた。しかし地中海世界の政治史的観点からシャルルによる港湾行政への傾注があったことが予想され、『アンジュー朝尚書局史料』の検討を経て、当該時代に活発な改革が行われていたことを明らかにした。その成果はシャルルの港湾行政に関する基礎研究として『史観』(第一七四冊)に投稿し採録されている。 その基礎研究をもとに、本年度では二本の軸で提示した「港の管理者」と「港の利用者」という観点について、特に前者の視角を中心に検討した。海上空間を問う際に論点となる「地中海航路の管理」のために、はたしてシチリアの支配者は「港を管理」することができたのか、という問いは西欧の地中海史家の議論に欠けている論点と言える。この問いへの取り組みはいまだ完遂していないが、「港の司法権」について明らかにすることで、その一面を捉えることができた。この成果は、シチリア王国の制度史における議論において、通説的な枠組みとして設定されてきた中央集権と地方自治という二項対立的な枠組みを取り払い、新たな姿を提示するに至った。さらにこれまであまり並列的に分析されてこなかった海事法制史のコンテクストと政治史的要素をつなぐ学際的な成果になったといえよう。本成果は依然として途中経過ではあるが、二〇一六年五月に日本西洋史学会にて報告される予定である。 以上本年度の成果は、西欧の研究を部分的にであるが塗り替えることに成功し、さらなる展望を提示したと言えるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
はじめに本年度における主な研究活動を概観する。前期6月から8月にかけてパレルモでの史料調査を実施、10月に早稲田大学史学会西洋史部会にて報告、11月に前近代西地中海圏研究会にて報告、早稲田大学史学会『史観』への論文投稿、1月から2月にかけてパレルモでの史料調査及び現地研究者との会談(本来はパレルモ大学ピエトロ・コッラオ教授との顔合わせを行う予定であったが、当教授のスケジュールが合わず、代わって文書館においてシチリア王国の文書史料や中世の「封建的」家臣に詳しいA・マッローネ氏とお会いすることができた。)を行った。そこでマッローネ氏からは多大な助言をいただいた。 本年度及び昨年度における4回にわたるパレルモでの史料調査を通じて、13-14世紀における「国王尚書局史料(Real Cancellerie)」の調査を行い、本研究の小テーマとして掲げた「シチリア王国の港湾行政」に関する文書について概ね調査を終えることができた。そこですでに目録に載せられた原史料の確認しつつ、歴史学研究上で扱われていない貴重な史料を見ることができた。それらは今年度における大きな成果と言える。さらにはオンライン・アーカイブにおいて19世紀に編纂・刊行された1282年から1290年までの文書史料(主にバルセロナ州立文書館所蔵史料から編纂されている)が閲覧できた。これにより、すでに入手していた「アンジュー朝尚書局史料(I Registri della Cancelleria Angioina)」と併せて分析することで、半島部のシチリア王国(一般的にはナポリ王国と称される)とシチリア島部のシチリア王国の双方において、1282年を跨ぐ研究視座を獲得し実践することが可能となった。報告会や論文投稿、史料状況の改善と現地研究者との交流を経て、当初の計画以上に進捗状況は順調である評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、本研究の中心テーマであるシチリア海峡(シチリア島とチュニジアの間の海)を巡る議論に迫る。中世地中海世界において、海は航路という道で結ばれ、その航路は港を結ぶことで成り立つ。すなわち航路の管理は港の管理であり、港をコントロールすることができるということが、航路のコントロールに繋がるのである。私はこれまで当該「海上空間」を分析するために、主にシチリア王国側の港湾行政を分析してきた。そして当該海上空間に迫る最良の手段として、上記の通り港を起点とした海事秩序の形成について分析を加えることだと考えるに至った。そしてその過程で研究対象とする時代を13世紀だけではなく、14世紀まで広げた。というのもその海事秩序の形成、展開期がまさに13-14世紀だからである。シチリア王国ではその時期に都市がメッシーナを中心とした海事裁判所を形成し、かつ国王もまた港湾での司法に介入していた。 シチリア王国側で展開した海事秩序形成の新たな動きの中で、対岸のイスラーム社会ではいかなる海事秩序を以て港が管理されたのか。その問いに迫るべく、2016年度の推進方策としては、主にイスラーム法の分析を行う予定である。 これまでシチリア王国の港を中心に港湾での司法行政について行ってきた分析と本年度行う分析を中心に、本研究の大テーマである「異なる宗教の折衝」について、航路と港と海事秩序を中心に博士論文の執筆を目指す。またその際に、研究委託制度を利用してパレルモ大学P・コッラオ教授に師事し、欧米の研究者との情報交換を行うことを予定している。
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