28年度では、まず5月22日に開催された第66回日本西洋史学会での報告を行った。その自由論題報告「13-14世紀、二つのシチリア王国と港湾行政―王権と港湾都市から描く海事秩序―」では、中央行政と地方行政の二分化に起因した研究の偏りを争点として指摘しながら、26年度から27年度の計4回の現地調査から見出された法規定文書の分析を通じて、港湾での秩序形成、その司法体系の解明を試みた。その結果、これまで明らかにしてきたアンジュー朝期(1266-1285年)にみる中央行政による強力な港湾管理とは異なり、14世紀にアラゴン王権と地方権力との相互協力的な港湾管理を指摘することができた。 また実施計画で想定していた研究委託での長期現地調査はかなわなかったものの、8月中旬から80日間に及ぶ調査期間を設けることができた。その中で現地研究者であるパレルモ大学P.コッラオ教授との情報交換を行い、パレルモ国立文書館とパレルモ市立歴史図書館にて都市行政文書及び司法措置に関する史料の一部を参照させていただいた。これらの史料は5月の日本西洋史学会報告での課題であった司法実践の様子を伝えてくれる。同史料の分析が博士論文執筆に大きく貢献すると予想され、その点は今後の研究課題として発展の余地が見込まれる。 さらに全国学会誌である『西洋史学』(2016年、No.262)にて、シャルル・ダンジュー治世のシチリア王国とその終焉に関する基礎的研究をまとめた。これまでに刊行された3本の拙稿を通じて、港湾制度について、財務・港湾行政について、そして王権の海域への影響力と対岸のムスリムとの関係について指摘してきた。それによって、本研究課題である「中世後期地中海世界とシチリア史―シャルル・ダンジューの政策を中心に―」の目的である地中海中部域における境域としての海域像の一端を提示することができたのではないだろうか。
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