本研究は、受験観を「受験勉強によって生じる学習態度や意識の変化に対する認知」と定義し、これを受験勉強の機能として捉えた。そして、生徒にとって望ましいとされる自律的な同一化的動機づけの促進という観点から、受験観(受験勉強の機能)に着目することを通して、受験期の適切な学習指導のあり方を検討することを目的とした。 平成28年度は、まず平成27年度に実施した調査データの再分析を行い,高校受験観(機能)を測定する尺度項目の精選を行った。そしてこの過程を経て作成された尺度を公立中学校の生徒を対象に実施した。その結果、高校受験観(受験勉強の機能)は、「学習態度の改善機能」、「競争意識の向上機能」、「理解状態の診断機能」、「将来目標の思考機能」、「時間的な制約機能」の5つによって整理されることが確認され、中でも「学習態度の改善機能」と「理解状態の診断機能」が生徒の学習活動に対して有益な成果(自律的な同一化的動機づけの促進およびそれを介して学業成績の向上に寄与するなど)をもたらすことが明らかにされた。一方で、「時間的な制約機能」にはネガティブな結果(統制的な同一化的動機づけを促進させ抑うつ気分を高めるなど)が示された。以上は、受験勉強による学習態度や意識の変化について、肯定的な側面に注目することで、受験勉強をより有意義なものすることができる可能性を示唆していると考えられる。これまで「受験は良いものか、もしくは悪いものか」と言った議論も存在していたが、受験勉強とどのように関われば良いのかといった教育的視座を提供したことは本研究の意義の一つといえる。この点は、これまで受験の機能を詳細に検討した研究がなかったため、議論そのものができなかったのであり、この意味において本研究は学術的な貢献をしたものと考えている。
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