研究課題
過去に波長分解能とS/N比の良い Lyα輝線が取得され、星雲輝線から銀河の後退速度や速度分散が測定されている12個のLAEsに対して、Verhamme et al. (2006) で構築された輻射輸送モデルを適用した。本サンプルは、金属吸収線からアウトフロー速度が推定され、SED fitからダスト量が推定されている。本利点を活かし、観測されたLyα輝線とモデルを詳細に比較することが可能である。本研究の目的は (1) Lyα輻射輸送モデルが観測を再現できるか検証し、(2) モデルから推定されたパラメータを調べることで、LAEs が強い Lyα 輝線を放射できる原因を理解することである。一つ目の結果として、Lyα輝線プロファイルが、blue bump という銀河の後退速度よりも短波長側にある第二ピークを持たない場合には、モデルはLyαプロファイルだけでなくアウトフロー速度や星雲輝線のFWHMといった物理量を再現することに成功した。一方で、blue bump を持つ天体では、星雲輝線のFWHMが観測値に比べ大きく見積もられたが、gravitational cooling のような追加のLyα放射源を与えれば説明が可能であることを示した。過去の研究はモデルの妥当性を検証せずに利用していた。本結果はモデルが妥当であることを示し、今後同モデルを利用する研究に対して重要である。二つ目の結果として、我々は中性水素柱密度に注目した。LAEs の持つ平均値は log(NHI) = 18.9 cm-2であり、明るく重い遠方銀河 LBGs に比べて一桁小さな値を持つことを発見した。遠方小質量銀河 LAEs は小さな NHIを持ち、Lyα光子が受ける散乱回数が小さいため、強いLyαを放射できることを、初めて定量的に示した。
2: おおむね順調に進展している
[研究実績の概要]で述べた様に、実はモデルがうまく適用できる天体とそうでない天体が存在することが分かった。このため、私はモデルの妥当性を様々な角度から検証し、うまくいかない場合には gravitational cooling という追加の Lyα 放射源があれば説明できることを示した。この様に、予想外の問題が生じて解決できた点は、当初の計画以上に進んだと言える。一方で、データについては、私が主観測者として各国の主要望遠鏡に提案し、Lyα輝線と星雲輝線を同時分光検出した LAEs の天体数を大きく増やす予定であった。しかし、観測提案が不採択であったため、データ数を増やすことはできなかった。この点では、やや遅れていると言える。以上を総合すると、概ね順調に進展していると言える。
平成27年度に行うことは大きく分けて以下の2点である。(1)平成26年度の結果を論文化し、科学誌 Astrophysical Journal へ投稿する。既にドラフトは完成しており、近日中に投稿予定である。(2) 1年間フランスのリヨン天文台に滞在し、Lyα分光天体を大幅に増やす予定である。リヨン天文台は、巨大望遠鏡(VLT)に搭載された最新装置 MUSE の開発に携わった研究機関である。MUSE は過去のどの装置よりも高い感度を持つ多天体可視面分光装置である。このため、多数の LAEs から Lyα輝線を分光検出することが可能である。赤方偏移 3-4 の LAEs がメインターゲットとなるため、平成26年度に私が行った赤方偏移 2 の研究と組み合わせることで、LAEs の性質が時代毎にどう進化するか理解することも可能である。
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