研究課題/領域番号 |
14J00680
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
太田 岳人 筑波大学, 芸術系, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 美術史 / ブルーノ・ムナーリ / 写真 / 国際芸術運動 |
研究実績の概要 |
本研究は、ブルーノ・ムナーリの自己形成期の活動について、二つの世界大戦間期のイタリアおよび国外の前衛的芸術諸潮流との関連を踏まえて考察することを目的としている。研究計画の二年目にあたる本年度は、そうした考察の発展として、ムナーリが1930年代にいくつかの雑誌媒体に発表した挿絵的なフォトモンタージュ、また『ムナーリの写真記事』(1944)における写真論に注目していった。 2015年6月から8月までイタリアに滞在することで、各地(ミラノ、フィレンツェ、ローマ、トリノ)の国立・市立図書館に各種芸術運動の機関誌ではないものの前衛芸術に関心を示し、ムナーリのフォトモンタージュを掲載した雑誌(月間総合誌『ナトゥーラ』や、年刊文芸誌『アルマナッコ・レッテラーリオ・ボンピアーニ』など)に関する資料をさらに収集した。その過程で、ムナーリの空間展示や写真の活用法にも影響を与えたと考えられる「ファシスト革命展」(1932)についての論考も生まれている。 また、2015年10月に各種学会・研究会で3件の発表を行ったが、そのうち「初期ブルーノ・ムナーリと写真:『ムナーリの写真記事』を中心に」では、モホイ=ナジやマン・レイといった、構成主義やシュルレアリスムの芸術家の議論がこの著作にをどう生かされているかを特に問題にした。発表は写真史の専門家からも好意的に受け入れられた一方、ヨーロッパのグラフ・ジャーナリズム史におけるイタリアの位置づけや、同国における写真の社会史的な意味合いを問う必要性が指摘された。これを受けた研究者は、2016年1月から2月にかけて再び渡伊し、当時のジャーナリズムやグラフ雑誌を検討するための再調査を行った。年度末に発表された論考「イタリア・ファシズム政権期の写真と雑誌について」は、本格的な『ムナーリの写真記事』論の基礎になるものとして構想されたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度においては日程の調整不足もあり、未来派研究所(ミラノ)のような、初期のムナーリのデッサンや作品を保存するアーカイヴを積極的に活用することが出来なかった。一方で、イタリア各地の国立図書館・市立図書館を活用した、ムナーリが寄稿・執筆者になった雑誌媒体の熟読および複製の収集は進んでおり、それらの成果をもとにして10月には3つの学会報告を行い、年度末からはそれらの発表を基にした研究論文を執筆・投稿を始めている。以上の点から、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度においては、これまでの二年間の研究で得られた知見を、引き続き論考化し各種学会誌に投稿していく。それらに合わせて、まだ取り上げていない第二次世界大戦期のムナーリの著作である『ムナーリのABC』(1942年)、同じく編著『抽象主義の素描』『ユーモアのイラスト・カタログ』(1944年)への考察も深めたい。さらに芸術家自身の残したデッサンやコラージュを検討するため、未来派研究所(ミラノ)やチルッリ・アーカイヴ(ニューヨーク)などの活用も視野に入れる。
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