本研究課題ではチャイロキツネザルによる種子散布が植物の繁殖成功にどのような効果をもたらすかを検証することを目的としている。すなわち、樹木による種子の生産、チャイロキツネザルによって移動する種子の割合、散布された種子の生存と実生成長を評価する必要がある。平成27年度は対象植物2種(Astrotrichilia asterotrichaとProtorhus deflexa)の結実期と種子の発芽時期にあわせて計10か月間、マダガスカル北西部アンカラファンツィカ国立公園において野外生態調査を行った。 森林調査区画周辺で遊動する2つのチャイロキツネザルの群れに発信機首輪をつけて観察し多結果(観察時間900時間以上)、季節で変動する環境条件に対応する行動戦略によって遊動パターンは季節的に変化するため、雨季結実植物と乾季結実植物の種子散布距離は大きく異なることが示された。A. asterotricha 9個体とP. deflexa 7個体を対象に種子トラップを用いて種子生産量を推定し、樹木定点観察を行って訪問動物による樹冠外への種子の持ち去り量を推定した(観察時間640時間)。A. asterotrichaではチャイロキツネザルだけが種子を持ち去ることが確認され、その持ち去り率は種子生産量の60-90%に及ぶと推定された。母樹下に落下した種子と母樹から離れて散布された種子の状況を森林内で実験的に再現し、種子の散布後の生存・成長を評価した。A. asterotrichaでは落下種子も散布種子も死亡率が高いが、P. deflexaは落下種子の死亡率が高く、散布種子の生存率が高かった。つまり、P. deflexaでは、チャイロキツネザルによる種子散布は実生の生存に大きく貢献することを示唆している。また、森林調査区画における動物種子散布を介した遺伝子流動パターンを検出するために、2.5m四方のコドラートを135個設置し、コドラート内の実生の葉を採集した。 今後これらのデータを解析し、学術論文を中心に成果を発表していく予定である。
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