本研究は、クローン増殖によって個体を増やす植物であるコンロンソウ集団を対象とした研究である。当該当年は、前年度までに得られた、共通圃場実験および北海道の自然生育地における野外調査の結果を解析した。また、他の集団においても同様の見られるかどうかを調べるために、複数集団においてゲノムワイドな遺伝マーカーを用いた多型解析を行った。 遺伝的に多様なコンロンソウ集団から遺伝マーカーを利用して、複数の遺伝的個体(ジェネット)を採取し、共通圃場で生活史形質の表現型における遺伝的変異について、特にクローン増殖の面から評価した。その結果クローン増殖に関わる形質のうち、地下茎長の平均値に遺伝的変異があることが明らかとなった。 遺伝的変異のある表現型形質が自然生育地の環境下ではどのように発現されるのか、また、この変異が自然生育地での各クローンの動態に及ぼす効果を調べるために、野外調査を行った。その際、微環境、遺伝的変異および前年の植物のサイズがクローン増殖に及ぼす効果を考慮した。その結果、自然生育地では、クローン増殖に関わる形質の表現型は、クローンの分布に関わらず空間的に近いものが似ていることが明らかになった。 上述の傾向が他の集団においても見られるかどうかを調べるために、北海道、滋賀、徳島の4集団において、ゲノムワイドな遺伝マーカーを用いた多型解析を行った。その結果、上述の結果と同様に、クローン増殖に関わる形質の表現型はクローンの分布に関わらず、空間的に近いものが似ていることが明らかになった。その他、①結実率や結果数が集団間で異なる、②実生が定着している滋賀の集団では、結実率、結果数ともに大きく、また遺伝的多様性が高いことが明らかになった。
|