研究実績の概要 |
本研究の目的は物質と光の相互作用における物理現象の一つの表面増強ラマン散乱(SERS)を用いた,単分子レベルのタンパクのダイナミクスの観察,解明である.化学反応や構造変化を数十から数百ミリ秒オーダーで観察を行なう.この研究は,単一タンパク質分子などの合成過程や,構造変化を明らかにすることで,最終的には創薬や,新たな健康診断法の開発に役立つものと考えている. 具体的にはミトコンドリア内膜に存在する,F1-ATPaseというモータータンパク質の回転運動及び,同時に起こる,加水分解反応をリアルタイムに,分子信号の検出と動きの検出を行う.初年度は観察するための,実験系の構築を主な目的とした. F1-ATPaseの加水分解反応における,1.回転運動を,全反射暗視野顕微鏡,2.加水分解反応によって起きる化学変化を,SERSを用いて検出する.ガラス基板上のF1-ATPaseの回転軸には, 40nmの金ナノ粒子が,非特異的に吸着され,ATP水溶液中において,加水分解反応を観察する.金ナノ粒子を暗視野顕微鏡の標的とし,また,その金ナノ粒子周辺で励起されるSERSを検出する.暗視野顕微鏡には,全反射照明を採用した.ガラス基板表面数nmの領域に形成される,エバネッセント場(光源は532nmのCWレーザー)を用いて回折限界を超えた40nmの金ナノ粒子の回転の動きをEM-CCDカメラを用いて検出する.構築した暗視野顕微鏡を用いて,F1-ATPaseの加水分解反応に伴う回転運動を観察した.経時観察ののちの,重心解析によって,同タンパク質3ステップ回転運動を観察した.また,SERSの検出系として,光源は676nmのCWレーザー光を用いることにした.EM-CCDカメラによって検出される.上記2台のカメラはトリガーによって同期され,回転の動きと化学変化を同時検出できる系となった.
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