研究課題
本研究において、脊髄損傷に対する神経幹細胞移植は、軽度・中等度損傷に対しては運動機能予後を改善させる一方で、重度損傷に対しては運動機能予後を改善させないこと明らかにした。さらに神経細胞除去モデルを用いて、この神経幹細胞移植の機能改善効果の違いは、脊髄損傷後に残存する神経細胞の数に影響を受けることを明らかにした。本研究の知見は、重度脊髄損傷に機能改善を促すためには神経細胞保護療法と幹細胞移植療法との併用が重要であることを示唆していると同時に、脊髄損傷の重症度に応じて細胞移植プロトコールを考慮すべきことを啓蒙している。
2: おおむね順調に進展している
1.損傷強度の違いによって神経幹細胞移植が運動機能回復に寄与する程度が異なることを明らかにした。BBB score・footprint・gripwalkいずれの評価尺度を用いた実験においても、軽度・中等度(50・70kdyn)の損傷を加えた脊髄に対しては移植後1週以降、対照群に比較して有意に運動機能回復を認めた。一方で重度脊髄損傷(90kdyn)に対しては運動機能回復に関して神経幹細胞移植が全く治療効果を有しないことが分かった。2.損傷強度の違いによってin vivoでの神経幹細胞の分化傾向は変わらなかった。神経幹細胞移植後6週の時点で移植細胞の分化傾向を調べた。移植細胞はGFAP陽性のアストロサイト、Hu陽性のニューロン、APC陽性のオリゴデンドロサイト、3系統にそれぞれ分化していた。損傷強度の違いによって、移植細胞の分化傾向に有意差を認めなかった。3.損傷強度の違いによって神経幹細胞の生着率は変わらなかった。In vivo imaging system (IVIS) を用いて移植細胞の生着率を測定した。In vitroで細胞数と発光強度が相関すること、in vivoで移植細胞と発光強度が相関することを確認した。神経幹細胞移植後6週までの生着率を測定した。損傷強度の違いによって神経幹細胞の生着率に有意差を認めなかった。4.亜急性期移植においても重度脊髄損傷に対して移植の効果が低いことが分かった。過去の報告において、損傷脊髄中の炎症が移植の微小環境に影響すること、損傷直後の脊髄はサイトカイン・ケモカインの分泌活性がdynamicに変化していることから、移植を行うタイミングによって移植の効果が異なる可能性を考えた。そこで脊髄損傷後、亜急性期(移植後7日)の時点で神経幹細胞を行い、重度損傷脊髄に効果があるかどうか調べた。しかし、亜急性期移植においても移植の効果を認めなかった。
個々の移植細胞における分化制御・栄養因子・成長因子に関わる遺伝子発現解析を行う方針である。損傷強度の異なる3群(50kdyn、70kdyn、90kdyn)の移植後7日目の脊髄からセルソーター・レーザーマイクロダイセクションを用いて、移植細胞を単離した状態で回収する。回収した移植細胞からmRNAを抽出し下記の分化転写活性・神経栄養因子に関わるmRNA発現解析をシングルセル定量的PCRで行う。1.ニューロンへの分化を促す因子(Mash1・DCX・β3-tubulin・TUC4・Synaptophysin)2.オリゴデンドロサイトへの分化を促す因子(Olig1・Olig2・NG2・PDGFα・SOX10・CNPase・MBP)3.神経栄養因子(NGF・GDNF・BDNF・CNTF・IGF2・HGF・EGF・FGF2・HDGF・VEGFα・VEGFβ・PDGFβ)さらに次世代シークエンサーを用いて網羅的遺伝子発現解析を行い、細胞活性関連遺伝子群の発現の違いを明らかにする。
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Science Translational Medicine
巻: 6 ページ: 256
10.1126/scitranslmed.3009430