研究課題/領域番号 |
14J00786
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 優介 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 葉緑体核様体 / 進化 / 亜硫酸還元酵素 |
研究実績の概要 |
佐藤博士らのグループは、エンドウマメから単離した葉緑体核様体に多量の亜硫酸還元酵素(以下SiRと表記)が含まれており、生化学的な解析によってSiRにはDNAを凝集させる活性が存在することを報告した (Sato et al., 2001)。SiRは、硫黄同化における重要な代謝酵素で、ほぼ全ての植物種からBLAST検索によってオーソログが検出された。実際、ヒメツリガネゴケやタバコなどの葉緑体核様体にもSiRが存在することが報告されている。しかし一方で、トウモロコシ やシロイヌナズナ では葉緑体核様体にSiRが存在しないことが報告もされていた。このSiRの核様体因子としての不連続性は、葉緑体核様体の進化の理解を阻んでいた。そこで申請者はこの矛盾に迫るべく、SiRのアミノ酸配列の保存性をマルチプルアライメントによって解析した。その結果、申請者は核様体局在型SiRの酵素活性ドメインの外側の下流に50アミノ酸ほどの保存されたペプチドが存在することを発見した。申請者は、このC末端のペプチドをC-terminally Encoded Peptide (CEP)と名付けた。CEPは非核様体型のSiRからは検出されなかった。構造予測プログラムによると、CEPはバクテリア型のDNA結合ドメインを形成していることが示唆された。さらに申請者は非核様体型であるシロイヌナズナのSiR にCEPを融合させたキメラタンパク質(AtSiR-CEP)を植物内で発現させ、このキメラタンパク質が葉緑体核様体に特異的に局在することを確認し、葉緑体内での亜硫酸還元酵素の局在決定におけるCEPの重要性を明らかにした。SiRの系統解析の結果、複数の植物種で独立にCEPが消失したことが示された。つまり、葉緑体核様体因子としてのSiRの不連続性は、複数の陸上植物で酵素活性に必須ではないCEPを独立に消失することで引き起こされたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
葉緑体核様体の主要因子として、初めて同定されたタンパク質である亜硫酸還元酵素については、葉緑体核様体に局在しない反例が近年複数報告されていた。この亜硫酸還元酵素の核様体因子としての進化的不連続性は葉緑体核様体構造の進化の歴史を理解するうえで大きな障害であった。亜硫酸還元酵素の葉緑体内局在がどのようなしくみで決定されるのかを明らかにするため申請者は複数の亜硫酸還元酵素のアミノ酸配列比較をおこない、その結果、葉緑体核様体型のみに共通するC末端配列(C-terminally encoded peptide: CEP)を見いだした。CEPは細菌のDNA結合モチーフ様の構造をとることが予想された。そこでCEPを非葉緑体核様体型亜硫酸還元酵素に付加して発現させたところ、葉緑体核様体との共局在を実現できた。これより、CEPが亜硫酸還元酵素の葉緑体核様体局在を決定する重要因子であること、また亜硫酸還元酵素の局在の進化的変遷が、CEPの獲得/喪失によって説明出来ることが示唆された。これは亜硫酸還元酵素の局在様式を決定する分子機構についての重要な発見である。
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今後の研究の推進方策 |
順遺伝学的に単離された葉緑体核様体形態に異常を示すクラミドモナスの原因遺伝子を突き止めることに成功し、そのタンパク質の酵素活性やシロイヌナズナとヒメツリガネゴケのオーソログの解析を行っている。現在、同定されたタンパク質にホリデイジャンクションを特異的に切断するヌクレアーゼ活性が検出され、今後、慎重に再現性を確認していく予定である。
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