研究課題/領域番号 |
14J00836
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水谷 大二郎 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | アセットマネジメント / 多元的劣化評価 / データ融合 / ハザードモデル / 混合確率モデル / マルコフ連鎖モンテカルロ法 |
研究実績の概要 |
平成26年度の主な研究成果として,【研究1】コピュラ関数を用いたデータ補完手法と多元的劣化過程モデルの開発,【研究2】健全度判定基準変更を考慮した隠れマルコフ劣化モデルの開発,があげられる.両者とも,社会基盤施設のアセットマネジメントにおける劣化過程の定量化のための劣化予測モデルであり,点検データを用いて統計的に劣化過程を予測するという考え方に基づいている. 【研究1】の研究内容は以下の通りである. 社会基盤施設の劣化過程が,複数種類の劣化事象(例えば,舗装であれば,ひび割れ,わだち掘れ,平坦性,など)により多元的に評価される場合も少なくない.さらに,個々の劣化事象内でも,評価単位(地域や路線単位)で劣化過程には異質性が存在する.本研究では,劣化評価の多元性と劣化過程の異質性に着目し,個々の劣化事象の劣化過程を,ベンチマーキングモデルと評価単位間の異質性パラメータとで構成される比例ハザードモデルで表現し,複数種類の劣化事象間の異質性の相関構造を,コピュラ関数を用いた同時分布で表現する多元的劣化過程モデルを開発した. 【研究2】の研究内容は以下の通りである. 本研究では,社会基盤施設の点検データが離散的な健全度で観測されている場合を考える.離散的健全度に関しては,社会基盤施設の供用開始以降,供用状況下において途中でその判定基準が変更される事例も少なくない.このような場合,判定基準変更前後の点検データを統合的に用いて,高精度な劣化予測を行うことが望ましい.本研究では,判定基準変更前後の点検データから1つの劣化過程を予測するための統計的方法論を開発した.具体的には,隠れマルコフ劣化モデルを定式化し,判定基準変更前後の双方の点検データを用いて,全ての時刻に亘り基準変更後の健全度で劣化過程を予測するための方法論を提案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度の研究は当初の計画以上の進展があった.その理由として,特別研究員の申請時点で計画していた3つの研究課題のうち,2つの研究(コピュラ関数を用いたデータ補完手法の開発,データ欠損を考慮した隠れマルコフ劣化モデルの開発)に関して,統計モデルの定式化,モデル推定手法の開発,適用事例を通じた実務への適用を完了したことに加え,査読付きジャーナルへ1編ずつ論文を投稿した点があげられる.さらに,コピュラ関数に関する手法においては,当初予定していたデータ補完という役割のみならず,社会基盤施設の多元的劣化過程(複数の劣化管理指標が同時に時間的推移を行うこと)を定量的に表現することが可能となった点が,「(1)当初の計画以上に進展している。」と自己評価する理由としてあげる.また,隠れマルコフ劣化モデルに関しても,当初,高速道路舗装への適用に限定した研究を予定していたが,健全度判定基準の変更という,より実務的ニーズの高い問題へも適用できるように理論を拡張した点も,「(1)当初の計画以上に進展している。」と自己評価する理由としてあげることができる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として,第1に,特別研究員の申請時点で計画していた3つの研究課題の最後の1課題「「【3】選択バイアス型データ欠損」を補完する手法」の開発に着手することがあげられる.これに関して,申請者は,現段階で,方法論の定式化手法を複数の候補の中から検討している.また,適用対象に関しては,当初の予定から変更せず,高速道路上の落下物データを予定している.第2に,平成26年度に開発した方法論の実務への実装があげられる.平成26年度に開発した2種類の方法論は,ともに,高速道路管理会社との共同研究による成果であるため,分析対象とした道路区間のインフラ管理問題には,すでに,当該研究の知見が活用されている.一方,これらの研究成果(劣化予測モデルや劣化評価手法)の有用性をより高めるためには,適用事例(適用するインフラの種類,数,地域)を拡大し,方法論の逐次改善を目指してゆく.
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