研究課題/領域番号 |
14J00839
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大宅 諒 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 核融合炉材料 / プラズマ壁相互作用 / タングステン / 炉壁材料 / 水素同位体吸蔵 |
研究実績の概要 |
核融合炉壁材料として最適なタングステン材料を開発することを目的に、研究課題「中性子照射がタングステン中の水素同位体吸蔵に及ぼす影響の解明と新材料の開発」に取り組んでいる。その達成に向けて、平成27年度は「既存の先進タングステン材料の材料評価」と「中性子照射を模擬したタングステン中の重水素吸蔵特性」、「低放射化フェライト鋼の表面状態変化」に関する研究を行った。 「既存の先進タングステン材料の材料評価」については、核融合炉壁材料として使用するために東北大学の栗下裕明氏により開発されたTFGRタングステン(Toughened, Fine-Grained Recrystallized Tungsten)中の水素同位体挙動を調べた。具体的には、材料中の微細組織(結晶粒サイズや添加不純物元素の割合等)を変化させた様々な材料を用いて、その重水素吸蔵特性を調べる研究を行った。重水素の照射は、カリフォルニア大学サンディエゴ校のPISECS-Aにて行われ、表面形態の観察及び重水素吸蔵量測定実験は大阪大学にて行われた。この結果は、国内学会にて発表した。 「中性子照射を模擬したタングステン中の重水素吸蔵特性」については、高エネルギーの鉄イオンを照射することで、中性子ダメージを模擬したタングステン試料中を作成し、その試料中の重水素吸蔵特性を調べる実験を行った。平成26年度に実施したアメリカのアイダホ国立研究所の実験研究を発展させる形で、大阪大学にて行われた。この結果は、国際学会にて発表した。 「低放射化フェライト鋼の表面状態変化」については、F82H鋼の軽水素イオン照射後の表面状態に関する研究を行った。分析は全て核融合科学研究所にて行われた。この材料は中性子照射による微視的ダメージ形成を低減するために開発された材料で、本研究課題と目的を同じくして開発された材料であるため、その材料特性を今後の研究遂行の参考にした。この結果は、国際学会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題「中性子照射がタングステン中の水素同位体吸蔵に及ぼす影響の解明と新材料の開発」の達成のために、中性子が水素同位体吸蔵に与える影響の観点から、①メカニズムの理解・②材料評価及び提案・③材料開発のプロセスを一貫して行うことを計画している。平成27年度に行った研究業績のうち、「中性子照射を模擬したタングステン中の重水素吸蔵特性」については①、「既存の先進タングステン材料の材料評価」と「低放射化フェライト鋼の表面状態変化」については②に該当する。 ①メカニズムを理解するために、タングステン中の微視的なダメージが水素同位体吸蔵量に与える影響について、その詳細で基礎的な知見を得ることを目的として研究を進めている。中性子ダメージを模擬したタングステン試料中を作成し、その試料中の重水素吸蔵特性を調べる実験を行った。その結果、試料中に形成されたダメージに重水素は吸蔵され、その量はダメージ量・照射した重水素量に依存していることが分かり、今後の研究に大いに生かされることが期待される。 ②材料評価及び提案のために、既存の先進タングステン材料(TFGRタングステン)の水素同位体吸蔵特性を調べる実験を行った。本年度は微細構造が僅かに異なる複数のTFGRタングステン試料を使用し、微細構造が水素同位体吸蔵に与える影響を評価した。その結果、TFGRタングステンは重水素吸蔵量において個体差が存在することが確認され、それは結晶粒界中に存在する残留気孔に由来すると考えられる、ということが分かった。 また、本年度は、新材料である低放射化フェライト鋼を使用し、水素同位体照射後の表面状態変化に関する研究も行った。この材料は中性子照射による微視的ダメージ形成を低減するために開発された材料で、本研究課題と目的を同じくして開発された材料であるため、その材料特性を今後の研究遂行の参考にした。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題「中性子照射がタングステン中の水素同位体吸蔵に及ぼす影響の解明と新材料の開発」の達成のために、中性子が水素同位体吸蔵に与える影響の観点から、①メカニズムの理解・②材料評価及び提案・③材料開発のプロセスを一貫して行うことを計画している。平成28年度は、27年度に引き続き、②材料評価及び提案行い、③材料開発に着手する予定である。②材料評価及び提案については、TFGRタングステン中に含まれるチタンカーバイド(TiC)やタンタルカーバイド(TaC)中の水素同位体吸蔵を調べるため、大阪大学のイオンビーム照射装置HiFITで重水素の注入実験を行う。その後、大阪大学の昇温脱離装置TDSを使用して、その重水素吸蔵特性を調べ、TFGRタングステンの結果と比較する。 また、これまでの材料評価関する研究の成果をまとめ、学会発表や論文発表を精力的に行う予定である。そして、これまでに行ってきた①と②に関する研究の結果を基に、タングステン材料の改良点やその方法を明らかにする。その後、③材料開発にも着手し、準備を行った後、可能な限り、実現に向けて研究を進める予定である。
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