今年度の研究実績は大きく分けて(A)執筆と(B)調査に別れるため、以下、この順で記す。 (A)アフリカ系アメリカ人女性ジャズ・ピアニストのメアリー・ルー・ウィリアムズ(1910-81)宛に書かれたファンレターの分析から、(1)ウィリアムズのキャリア形成においてファン達が担った役割の解明、ならびに(2)ファン達にウィリアムズの音楽や彼女自身、引いてはジャズがどのように受け入れられていたのかを解析した。具体的には、ファン達が自発的にウィリアムズのプロモーション活動を行っていたこと、またファンがウィリアムズ自身や彼女の音楽に見出した意味が、現在では主流になっているウィリアムズ像とは異なっていた事実が解明された。このことから、ファンや聴取者はテキストに予め内包された意味をそのまま受け入れるのではなく、人種、ジェンダー、階級やロケーションなど、各々の社会的背景を反映して独自の解釈を行っていたことが解る。 (B)ニューオリンズのTulane大学内にあるThe Hogan Jazz Archive、およびワシントンD.C.にあるThe National Museum of American Historyにて資料の収集にあたった。前者においては、1948年にニューオリンズのファンや愛好家らによって結成された組織The New Orleans Jazz Clubに関する調査を行い、彼ら・彼女らの活動内容やニューオリンズのジャズをめぐる文化的状況に対する貢献を明らかにした。また後者では、アフリカ系アメリカ人ジャズ演奏家兼作曲家デューク・エリントン(1899-1974)宛に書かれたファンレターに目を通すことで、世界各地で発足したファンを中心とした団体The Duke Ellington Societyとエリントンが緊密に書簡のやりとりがあったことが解明された。
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