平成 28 年度は主に繊毛細胞ならびに分泌細胞の由来について研究を遂行した。卵管上皮組織における細胞増殖マーカー Ki67 発現を免疫組織化学染色により検討したところ、これを発現する細胞は分泌細胞ならびに基底細胞であり、繊毛細胞には一切発現していなかった。このことから卵管上皮組織のうち繊毛細胞が終末分化細胞であり、分泌細胞が transient amplifying cell、基底細胞が stem cell である可能性が考えられた。卵管上皮層の基底部に存在する細胞には、①幹細胞、②上皮内リンパ球の2種類が過去に報告されており、それぞれを区分する必要があった。本研究では、①のマーカーとして報告された CD44 タンパク質陽性細胞の多く (約80%) が②のマーカー CD8 陽性であることがわかり、CD44 だけでは明確に stem cell を見分けることができないことが判明した。その一方 CD44 陽性かつ CD8 陰性の細胞は確かに存在し、この細胞が stem cell である可能性は残った。またこの細胞は間葉マーカー vimentin 陽性であることがわかり、この幹細胞の候補である細胞は間葉系の性質を持つことが考えられた。さらに共焦点レーザー顕微鏡を用いた観察により、CD44陽性 vimentin 陽性細胞が基底膜を通過する像を得ることができた。この細胞がリンパ球か否かを示せていないが、①または②のどちらかの細胞が基底膜通過能を持つことが考えられた。 繊毛細胞ならびに分泌細胞の割合は排卵周期の進行と共に変化することが知られており、この割合はこれらの細胞の機能調節にも関与すると考えられるが、この細胞の割合を調節する細胞分化機構・卵管を構成する細胞の種類に関して、更なる問いを生む結果となった。近年発展しつつある1細胞RNAシークエンシングなどにより、卵管を構成する細胞の heterogeneity を明らかにすることができれば、卵管上皮細胞の機能調節機構解明に更なる弾みがつくことが期待できる。
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