研究課題/領域番号 |
14J00931
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小松 貴 九州大学, 熱帯農学研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 好蟻性生物 / アリ / アリヅカコオロギ / 寄主特異性 / 形態計測 / 相互作用 |
研究実績の概要 |
海外における野外調査は、2014年6月にチェコとタイ、10月に台湾、さらに2015年3月にマレー半島に赴き、トータルで80個体あまりのアリヅカコオロギを採集した。これにより、ヨーロッパにおけるアリヅカコオロギ属の寄主アリ種特異性の傾向が、アジア地域のものとはかなり異なっていることが判明した。また、タイプ標本が消失しており正体不明だった、日本の沖縄と台湾の共通種ミナミアリヅカが、実際に同一種である確証を得ることができた。これは、アジア産アリヅカコオロギ属の分類学的な整理を行ううえで非常に重要な成果であった。なお国内では本州から九州にかけて約30個体前後のサンプルを得た。 分子系統解析では、既に作られている20形態種400個体以上の系統樹(ミトコンドリアDNA、16SrRNA遺伝子、512bp)に、さらに本年度得られた東南アジア産サンプルのうち30個体程度を追加して行った。その結果、広域分布種シロオビアリヅカの中に、地域ごとに顕著な遺伝的変異が見つかった。なお、本種は近年別種のシノニムとされたが、我々は形態学的な観点からこの種を復活させる予定である。 日本産アリヅカコオロギ属のうち、野外での寄種特異性が顕著に異なる4種に関して、大顎形態の比較を行った。その結果、アリからの口移し給餌にほぼ摂食の術を依存する種は、自力で固形餌を摂食する他3種に比べて大顎サイズが著しく小さく、餌をすりつぶすための部分の退化傾向が著しいことが判明した。一方、大顎の歯サイズは種間で差がなく、口移し給餌に依存した種でもアリの卵に傷をつけ中身を吸う際の道具として、機能的な歯を残している可能性が示唆された。 アリヅカコオロギ属のタイプ標本の観察は、6月にフランスのパリ自然史博物館で、1月に大阪の自然史博物館へ赴いて行った。これにより、前者では7種、後者では2種のアジア産アリヅカコオロギの標本を確認することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アジア産アリヅカコオロギ属の中でも、分類学的な整理を行ううえで特に重要な種のタイプ標本が収蔵されたフランス・パリ自然史博物館に直接赴き、標本の観察を行うことができた。 アリヅカコオロギ属における寄主特異性の進化を論じるうえで重要となる、「アリとの相互作用に直接関与する外部形態」が、アリヅカコオロギ種毎に明瞭に異なっている証拠を得られ、今後本属の寄生行動と絡めて系統進化を論じるうえで重要な情報となりうるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
アジア産アリヅカコオロギ属のタイプ標本は、フランスの他ドイツの博物館にも多数収蔵されている。これらの標本の中にも非常に重要な種が存在するが、それらは地理的に離れた複数の博物館に散らばって収蔵されているため、直接訪問するよりも現地のキュレーターに連絡し、郵送などの手段を利用すべきであろう。 国外での野外サンプリングにおいては、ヨーロッパやアジア大陸温帯部、可能であれば北米大陸のサンプルを入手できるよう、各現地の共同研究者と連携していきたい。
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