研究課題/領域番号 |
14J00952
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
白川 俊之 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 社会階層 / 社会移動 / 教育社会学 / 高等教育 |
研究実績の概要 |
社会階層と社会移動(SSM)全国調査のデータを利用し、日本社会における教育機会の不平等の趨勢の分析に取り組んだ。その際に、どの学校段階まで進学するかという垂直の学歴の比較に加えて、同一学校段階の内部のどのような学校に進学するかという水平の学歴の比較にも着目して、研究をおこなった。4年制大学を選抜度と威信の高い①全国大学、②設置時期が1960年以前の大学、③上記の①、②に含まれない大学の3つのタイプに分けて高等教育の拡大過程を記述的に検討した結果、1900年代後半に生じた高学歴化は、主として3番目のタイプの大学と非大学系の高等教育機関(短大、専門学校)によって担われていたことが改めて確認された。加えて、高等教育の拡大がすすむなかで、どのようなタイプの学校でも入学者の中学時成績が低下したこと、非大学系の高等教育機関で成績の低下が目立ち、大学との格差の拡大と高等教育内部の差異化が進行したことが明らかになった。
本研究のメインの課題である出身階層の影響については、下記の知見が得られた。出身階層に応じて高等教育へのアクセスの機会は大きく異なり、上位層ではほとんどのものが何らかの高等教育機関に進学しているが、下位層では高卒の割合がどのコーホートでも高い。上位層からも非大学系の高等教育機関や3番目のタイプの大学にすすむものは少なくはなく、趨勢としてはむしろ増加している。このことは、高等教育機関の差異化が必ずしも階層的な分断をともないつつすすんだわけではないことを示唆している。実際、高等教育のアクセスの機会の不平等は長期的には縮小する動きが認められ、しかも威信上位の特定の大学において階層的な閉鎖性がかえって強くなるような傾向は見出されない。全体として、近年の研究で指摘されている機会の平等化傾向が、高等教育という後期の学校段階やその質的な多様性にまで範囲を広げても支持されることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高等教育段階の機会の不平等の分析に多角的に取り組んだため、研究はおおむね計画したとおりに進展しているといえる。研究上必要なデータの整備や文献サーベイも順調にすすみ、計画していたデータの分析と結果の公表に向けて着実に歩みをすすめている。
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今後の研究の推進方策 |
上述した威信と設置時期にもとづく学校(大学)の分類は高等教育段階での水平的な機会の不平等を検討するための1つの基準でしかなく、別の基準として教育内容(学部・学科、専門分野)に着目することも効果的だと考えられる。この方向性での研究にもすでに着手している。こちらは2012年に高校生を対象とした調査結果の2次分析から、親の階層的地位が高い場合、子どもも高い地位につながる可能性の高い学部(医療系や社会科学系の学部・学科など)への進学を希望しやすいことや、父親が卒業した学科と子どもが進学を希望する学科とのあいだに直接的な関係が見られ、専門分野の選択をとおして教育資源の継承が生じている可能性があることを実証的に示した。
教育内容にもとづく学校の類型化は他国のシステムに適用することが比較的容易なため、この観点から国際比較研究をおこなうことが可能である。現在、垂直的な学歴の不平等にかんして各国の経済的発展と教育制度が及ぼすインパクトを推計する研究の準備をすすめているが、それと平行して教育内容に着目した水平的不平等の比較分析をおこなうことも視野に入れている。また、これまでの研究によって威信と設置時期にもとづく学校タイプの分析でも、教育内容を取り上げた質的不平等の分析でも、階層差に加えて性別による差異がきわめて顕著であることが分かった。このような知見を踏まえたうえで分析計画を少し見直し、研究の推進過程におけるジェンダーの比重を増やし、高等教育の社会的不平等の検討という範疇のもとで、性別が生みだす機会の不平等の記述とメカニズムの分析に取り組むことを予定している。
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