本研究課題では,非圧縮粘性流体の運動を記述するナヴィエ・ストークス方程式のための数値計算法の開発と解析を扱っており,特にラグランジュ・ガレルキンスキームを研究している.前年度までに,局所線形化流速を用いるスキームを開発し,その収束性を示したことにより,これまでに存在していた理論と計算の乖離を解決した. 本年度はそのベースの上に以下の結果を得た. オセーン問題に対して,流速と圧力に同じ三角形 k 次要素を用いる圧力安定化ラグランジュ・ガレルキンスキームを上述の局所線形化流速を用いる手法と結合した.流速の数値解に対して,粘性係数に依存しない誤差評価を得た.本スキームは上述のスキームと同じく厳密に計算することが出来る.スキームを実現するプログラムを作成し,創成解から設定されるテスト問題において粘性係数が小さいとき,広く用いられているテイラー・フッド要素と比較して,良好な計算結果が得られることが確認できた.この結果を応用数理学会,RIMS研究集会,国際研究集会で発表した. 報告者が作成していたプログラムのすべての箇所の計算時間を計測し,計算速度を向上させた.特に,厳密な積分を行うプログラムの見直しを行い,線形計算の核となる部分と三角形同士の交わりを記述するデータ構造を一新することにより,その部分の計算速度を向上させた. 前年度まで得られていた正三角形領域におけるキャビティ流れの他に,いくつかの二等辺三角形領域におけるキャビティ流れを計算し,定常解の分岐を調べた.形状の違いが,レイノルズ数に関する分岐の現れやすさに影響を及ぼすことが観察された. 本課題で得られた結果は博士学位論文にまとめられており,早稲田大学リポジトリで一般公開される予定である.また,前年度に投稿していた論文がアメリカ数学会の論文誌 Math. Comp. に受理された.
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