研究実績の概要 |
本研究では, PGE2 (Prostaglandin E2)-EP4シグナルによる腹部大動脈瘤の発症・進行メカニズムを明らかにすることを目的としている. 平成26年度までに, ヒト腹部大動脈瘤組織においてEP4シグナル依存的に分泌が亢進するプロテアーゼやサイトカインが明らかになった。ヒト腹部大動脈瘤組織由来の平滑筋細胞ではEP4発現が亢進していたことから, EP4による腹部大動脈瘤発症メカニズムには平滑筋細胞を中心とした仕組みが存在するという仮説を立て, その仮説を検証するとともに, 腹部大動脈瘤の発症メカニズムを明らかにすることを目的とし平成27年度は実験を行った. 平滑筋細胞選択的にEP4が過大発現するマウス (EP4-Tgマウス)を作成し, 検討を行った. Angiotensin II (AngII, 1.0μg/kg/min) を28日間持続的に投与し, 血管炎症を惹起したところ, 比較対照のNon-Tgマウスが全例 (6匹) 生存したのに対して, EP4-Tgマウスはおよそ6割が14日目を前に死亡し, 28日目までに全例 (8匹) 死亡に至った. 腹部大動脈瘤発症の前段階であると考えられるAngII 負荷day4の大動脈組織では 好中球および炎症性単球/マクロファージの数が顕著に増加していることが分かり, これらの浸潤した炎症性細胞が分泌するMMP-9がEP4-Tgマウスにおける腹部大動脈瘤の発症に関与している可能性が示唆された. 平滑筋細胞で発現する炎症性サイトカインのうちPGE2による増加率が大きいサイトカインとしてIL-6が同定され, IL-6受容体・抗体による阻害によりEP4-Tgマウスにおける腹部大動脈瘤の発症が抑えられた. 以上の結果から, 平滑筋細胞におけるEP4シグナルはIL-6分泌を介して炎症反応を亢進し, 腹部大動脈瘤の発症を促すと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
3年目である28年度は, EP4により増加するIL-6がどのように腹部大動脈瘤の発症に関与するのか検討を行う. IL-6の機能は多岐に渡り, 特にマクロファージ分化を促進する働きが知られている. In vivoでIL-6受容体・抗体を投与したときに, AngII負荷時のEP4-Tgマウス大動脈の炎症状態をFlow Cytometry で評価する. 組織中の好中球, 単球, マクロファージの数を定量するとともにそれぞれの分画をCell sorterで分取し, マクロファージ分化マーカーなどの発現量を定量的PCRで比較する. また, EP4によるIL-6発現調節メカニズムを検討する. IL-6の発現増加にはNF-κB経路が働くことが良く知られている. EP4の主要なセカンドメッセンジャーであるcAMPとNF-κB経路に相互作用があることが示唆されているが, そのメカニズムは不明な部分が多い. 前年度においては, EP4-Tgマウスの大動脈平滑筋細胞を用いてEP4の下流でcAMP, TAK1, NF-κB, p38, ERKが関与していることが示唆された. 本年度は, 同様のメカニズムがヒトの平滑筋細胞においても働いている可能性をヒト大動脈平滑筋細胞を用いて検討する.
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