研究課題/領域番号 |
14J01048
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
久保 豊 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 木下惠介 / ジェンダー / セクシュアリティ / クィア映画理論 / LGBT / 日本映画史 / ホームドラマ / 映画学 |
研究実績の概要 |
研究員は平成27年度の研究テーマを「1950年代の木下惠介映画に見る少年同士の情動の表象、女性のジェンダー/セクシュアリティ表象」とし、採用第一年度に引き続きクィア映画理論やフェミニズム映画理論をはじめとする理論的土台を強化するとともに、木下映画に関する映像・文字資料調査と分析を重ね、論文執筆を行なった。 木下映画における少年同士の情動の考察として、平成26年7月に開催された第10回表象文化論学会にて「木下惠介『夕やけ雲』におけるクィアな視線--ホーム・ムーヴィー概念の脱構築の可能性」という題目で口頭発表を行なった。研究員は、異性愛規範に則った家族構成を基盤とするホームドラマが、個々の映画観客にとって擬似的ホーム・ムーヴィーとなる可能性を考察した。本発表をもとに執筆した論文が日本映画学会刊行の『映画研究』に掲載された。 木下映画における女性のジェンダー/セクシュアリティ表象の考察として、平成26年12月に開催された第11回日本映画学会にて「『カルメン故郷に帰る』と『カルメン純情す」におけるカルメン像の変化--音楽面からの再評価」という題目で口頭発表を行なった。研究員は、『カルメン故郷に帰る』を主な分析対象とし、劇中で使用されるフランツ・シューベルトの音楽と主人公の帰郷物語の関係性をジェンダーとセクシュアリティの観点も含めて多面的に分析した。研究員は、映画学叢書(ミネルヴァ書房)近刊の『映画とジェンダー/エスニシティ』への参加を要請され、上記発表をもとに執筆した「高峰秀子の白い肌--『カルメン故郷に帰る』に見るジェンダー/エスニック・マイノリティの表象」と題した論文を寄稿した。 さらに研究員は、日本を代表する総合芸術誌『ユリイカ』に木下映画における女優原節子論を寄稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、木下惠介映画に見る家族と人間のジェンダー/セクシュアリティ表象の多面性を分析しており、平成27年度において研究員は両者に関する研究を総合的に進展することができた。詳細な理由は以下の通りである。 家族に関する研究では、採用1年目に引き続き映画雑誌および新聞上の映画評をもとに1950年代の木下映画の受容についてアーカイブ調査を行い、家族および共同体に焦点を合わせた映画群(『カルメン故郷に帰る』、『夕やけ雲』、『破れ太鼓』など)のテクスト分析を重ね、その成果の一部を日本映画学会と表象文化論学会で口頭発表した。 人間のジェンダー/セクシュアリティ表象に関する研究では、次の研究内容をまとめて学術誌に研究論文を投稿し掲載された。竹村和子、ジュディス・バトラー、テレサ・ド・ローレティスらによる先行研究からジェンダー論およびクィア理論の基盤を学んだ。研究員はこれらの先行研究で提唱される理論を援用して木下作品(主に『夕やけ雲』と『海の花火』)における男性登場人物に秘められたクィアネスを切り返しやフラッシュバックといった映画文法の観点から分析した。 上記二点を考察するにつれて、研究員は木下映画における女性登場人物の役割にたいして関心を深めていった。考察の一歩として、木下のコメディ映画(『お嬢さん乾杯!』と『カルメン故郷に帰る』)の女性主人公たちがいかに戦後日本社会が要請する様々な規範から逸脱する傾向にあり、その逸脱性が男性主人公を魅了する点について分析した。その成果をまとめた論文が商業誌『ユリイカ』に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
研究員は本研究課題の遂行のために、以下の方針に従って研究を行なう。 まず、前年度に引き続き、木下惠介の映画の分析と関連資料の緻密な調査を行なう。木下映画における家族と人間のジェンダー/セクシュアリティ表象の対比として、小津安二郎、黒澤明、成瀬巳喜男、五所平之助の映画群との比較考察を行なう。また、木下映画の特質を引き継ぐと考えられる21世紀の映画作家橋口亮輔の作品も調査対象に入れる。 平成26、27年度に引き続き、研究員は木下作品におけるクィアな視線を最大の関心として、占領期から1950年代後半にかけての日本映画におけるジェンダー/セクシュアリティ表象の考察を進めて行く。そのためには、同時代のハリウッド映画(ミュージカル、スクリューボール・コメディ、ファミリーメロドラマ)におけるLGBT・クィア表象にも目を向けつつ、フェミニズム、レズビアン・ゲイ批評、クィア映画理論のさらなる習得と実践を行なう。 平成28年度の研究では、木下映画における男性表象だけでなく、高峰秀子、久我美子、有馬稲子、そして田中絹代といった女優に焦点を合わせて、女性/娘/母親の表象にも注目する。特に久我に関する先行研究は皆無に等しいが、木下映画における女性のジェンダー/セクシュアリティを考える上で彼女の存在は重要な参照項であると考えられる。また、木下映画には女性を主人公にする小説を原作とした作品も多いため、小説と映画における女性表象の差異にも着目する。 さらに研究員は、現代日本の映画言説におけるジェンダー/セクシュアリティを考察することを目的に、平成28年度に日本で開催される映画祭にも積極的に参加する。 これらの研究成果を論文にして学術誌に投稿するだけでなく、木下の『惜春鳥』に関する論文を核に博士論文として京都大学大学院人間・環境学研究科に提出することを目指す。
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