研究員は平成28年度の研究テーマを「映画作家木下惠介の感性」とし、採用第一年・二年度に引き続き、作品分析とアーカイブ等で文字資料・映像資料調査を行った。特に、1950年代を中心とした木下映画における異性愛規範の価値観に抵抗する/から逸脱する表象を発掘し、ジェンダー・セクシュアリティ、政治、社会、家族、音楽をめぐる同時代の言説を参照して、木下の感性について作家論アプローチを軸として分析した。フェミニスト音楽論を用いた1950年代の木下映画(『カルメン故郷に帰る』『カルメン純情す』等)と物語内/物語外音楽の関係性分析、クィア理論における時空間理解を用いて女性と人生選択の表象分析について、シンポジウムと学会で口頭発表を行った。さらに、1950年代後半の木下映画におけるローカリティと男性性の関係性について、査読研究論文を英語で出版した。 過去三年間の調査内容・実績を経て研究員は、木下惠介が1950年代における日本映画産業の隆盛に貢献し、同時代の観客や批評家に広く支持・受容された理由の一つが木下にみる特異な感性にあることを明らかにした。これまでの成果を博士論文として提出し、査読審査を経て博士号を授与された。
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