研究課題/領域番号 |
14J01121
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
篠原 克寿 首都大学東京, 理工学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 非双曲型力学系 / 野生的力学系 / 異次元へテロクリニックサイクル / 部分双曲型力学系 / ホモクリニック接触 / 周期点の増大度 / 極小性 |
研究実績の概要 |
当該年度の結果として,まず野生的力学系の構造分析のために開始した区間上の半群作用の極小性質に関する論文がロンドン数学会の発行している専門誌より“On the minimality of semigroup actions on the interval which are C^1-close to the identity” というタイトルで出版された.また,この結果に関して講演を行った. 第二の結果としては半群作用の周期点の増大度である.浅岡正幸氏(京都大学),D.Turaev 氏 (Imperial College London)らとの共同研究で,一次元半群作用における周期点の増大度に関する研究を高い正則性のもとで行った.非双曲型力学系で,歪直積で与えられるようなもののうち,高い次数の微分に一定の条件を課した下で指数増大度を越えるような周期点の増加が観察されることを示した.この結果を現在論文としてまとめている. また,フランスの C.Bonatti氏 (Universite de Bourgogne) との共同研究で,新しいタイプの野生的力学系の構成に関して研究を進めた.より具体的には,これまでの野生的力学系の例は優越分解の非存在を用いるものであったが,氏と数年前より準備してきた flexible periodic points と呼ばれる摂動手法を用いることにより,部分双曲性があるような力学系でも,位相幾何学的を経由することにより野生性の存在が証明されることが分かった.これらの内容に関し,現在論文を準備中である. 最後に,区間力学系の応用研究として,β変換を用いたAD変換器の精度保証に関し研究を行い,論文を出版した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前の項目で述べたとおり,区間上の半群作用の極小性に関する論文が出版された.この結果は中心方向が一次元である部分双曲型力学系の野生性を分析する上で重要な道具である.というのも,極小性の非存在がいえるのであれば,同様の構成を繰り返すことにより,考察されているような状況を中心方向に持つような部分双曲型力学系の野生性に関して,なにがしかの結果を得られることが期待されるからである.このような結果が出版論文という形で出るということはこれまでの研究が順調に進んでいることの証左であろう. 次に,非双曲型力学系の周期点の増大度に関する研究に関しては,まだ論文の形にはなってはいないが,結果それ自身としては非双曲型力学系の複雑さを示す内容であり,野生的力学系の構造分析を目指す本研究課題の達成を示す内容であるといえるだろう.また,この結果に関連して,本結果が得られた仮定の必要性を考える,という問題が浮き彫りになり,このような問題の考察を進めて行くことで,必然的に野生的力学系の性質それ自体により深く迫れることになるだろうと期待している.野生的力学系に関する正しい問題意識を見つけさせるという意味で,本研究の進展が本研究課題の達成に貢献するだろうということが期待される. 野生的力学系の分岐理論の研究に関しても,現段階では論文の形になってはいないが,証明に関しては概ね完成しており,課題達成に関して前進しているといえる.分岐理論の最終目標は非周期的な鎖回帰集合のさまざまな性質を持ったものの例の構成であるが,現段階で得られた結果で体積双曲的な部分双曲型力学系で野生的なものの例という,これまで知られていなかったような複雑な構造を持つ力学系の例が得られており,野生的力学系の研究という本研究課題の趣旨からすれば,ある程度の進展が得られたと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
まず,非双曲型力学系の周期点の増大度に関する研究の論文を終了させるのが喫緊の課題である.また,本研究からから派生する問題に関して,まとめた時間を取り共同研究者と議論を重ねることが重要であろう.このため,ある程度長い時間をとり当該研究の共同研究者を訪問し,論文執筆および議論をする予定である. 次に,野生的力学系の分岐に関しては,低い正則性のもとでの議論はある程度見通しが立ってきたが,リノーマリゼーションの手法を用いて当該の問題を高い正則性のもとで扱う方法論を模索するという研究を27年度から開始する予定である.計画書類に書いたとおり,このためリノーマリゼーションの研究の第一人者である D.Turaev 氏や B. Krauskopf 氏らを訪問し,その技術の整理および習得と,それをこれまでの幾何学的に整理された状況下においてどの程度まで適用できるか,ということの検討を始めたい. また,当初の計画どおり,分岐理論および野生的力学系の構造分析に関して,半群作用の研究などに確率論・エルゴード理論的な手法を用いて取り組む準備も27年度から開始する予定である.昨年度に半群作用の論文が出版されたので,予定通り確率論的手法の研究を開始する準備は十分整っていると考えられる.関連する研究者の予定などを考慮しつつ,議論の計画を立てていく予定である. 最後に,初年度において周期点増大度および分岐理論の研究に関していくつかの結果が得られたので,これらの研究を国際学会などで発表し,関連する分野の研究者と研究の展開に関して議論を行うことを計画している.具体的には7月下旬のイタリア・トリエステでの力学系の研究集会および八月下旬のチリでの非双曲型力学系の研究集会での講演を検討している.
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