研究課題
当該年度は、重い電子系超伝導体URu2Si2の超純良単結晶試料(RRR = 620, 1080)を用い、電子状態の変化に敏感な測定手法であるネルンスト係数測定を行った。その結果、超伝導転移温度(Tsc = 1.5 K)よりも3倍程度高い温度から、ネルンスト係数が急激に増大することがわかった。これは超伝導揺らぎによるものであると考えられる。また、この超伝導揺らぎに起因したネルンスト係数の増大は、試料の純良性が増すほど顕著に現れた。これは、超伝導体においてこれまで観測されてきた実験結果と定性的に異なる結果である。さらに、ペルチェ係数の大きさは、従来の超伝導体をよく説明する、ガウス型超伝導揺らぎの理論から予想される値の100万倍に達することもわかった。URu2Si2では時間反転対称性の破れたカイラルd波超伝導が実現していると考えられており、本研究で観測された異常なネルンスト効果は、このカイラル超伝導を基にした最近の理論によりうまく説明することができる。以上のことから、本研究の結果は、時間反転対称性の破れた超伝導に特有なBerry位相の揺らぎを観測したものであることが示唆される。また、本研究員は、量子スピンアイスYb2Ti2O7の熱伝導率測定も行った。その結果、スピン液体状態が実現する温度領域で、熱伝導率が非単調な磁場依存性を示した。この非単調な振る舞いは、高磁場領域はスピン-フォノン散乱の機構でよく説明できるが、ゼロ磁場近傍での熱伝導率の減少はこの機構では説明できず、磁気モノポール励起が原因であることがわかった。また、磁気モノポールのエネルギーギャップを見積もると1 K程度となり、古典モノポールの場合のエネルギーギャップ2Jzz = 4 Kと比べ、強く抑制されている。これは量子揺らぎの効果で、磁気モノポールがバンド分散を形成したことが原因であると示唆される。
2: おおむね順調に進展している
当該年度は、重い電子系超伝導体URu2Si2におけるネルンスト係数測定を行い、巨大なネルンスト係数を観測した。URu2Si2ではカイラルd波超伝導が実現していると考えられており、本研究の結果は、時間反転対称性の破れた超伝導に特有なBerry位相の揺らぎを観測したものであると示唆される。また、量子スピンアイスYb2Ti2O7の熱伝導率測定から、量子モノポールを観測した。これらの結果を、国内外の学会に精力的に参加し発表を行い、論文を投稿した。以上を踏まえると、研究はおおむね順調に進展していると言える。
今後も熱電係数測定を通して、重い電子系のみならず他の強相関電子系の超伝導揺らぎを議論したい。また現在、比熱測定と熱膨張率測定用のプローブを立ち上げているので、これらを組み合わせて量子臨界点の議論を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
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http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/141202_1.html