研究課題
当該年度は、重い電子系超伝導体CeCu2Si2の熱伝導率測定を行った。CeCu2Si2の超伝導は反強磁性量子臨界点近傍で発現することから、スピン揺らぎを媒介として対形成を行うと考えられており、長らく異方的d波超伝導体であると考えられてきた。しかし、最近の比熱測定によりフルギャップであることが報告され、興味が持たれている。しかしながら、比熱測定は主に重いフェルミ面からの寄与を検出するため軽いフェルミ面の情報は得られておらず、実際はdxy波対称性などの可能性を残していることから、超伝導ギャップ構造の完全決定には至っていない。そこで本研究員は、軽いフェルミ面からの準粒子励起に敏感な熱伝導率測定と、不純物効果の実験を行い、CeCu2Si2はフルギャップS++波超伝導であることを明らかにした。このことは、強いクーロン斥力にも関わらずオンサイトで対形成することを意味しており、これまでの非従来型超伝導に対する理解を覆す結果となった。また本研究員は量子スピンアイスPr2Zr2O7の熱伝導率測定も行った。ゼロ磁場における熱伝導率の温度依存性を測定した結果、低温にするにつれて熱伝導率は減少し、まず1.6 K以下のスピン液体状態が実現する温度領域で温度依存性が変化した。これはモノポール励起によるものであると考えられる。さらに低温にすると、200 mK以下で熱伝導率が再び上昇する異常な振舞いを観測した。そこで本研究員はモノポール以外の励起、つまりフォトン励起の可能性を議論するため、200 mK以下において熱伝導率の磁場依存性を測定した。その結果、ゼロ磁場付近の低磁場領域で一旦上昇し、その後ピークを持って減少する振舞いを観測した。これは、2-in-2-outの個数の磁場依存性と定性的に一致する。実際、フォトン励起は2-in-2-outを舞台とするため、本研究員はフォトン励起を観測した可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
当該年度は重い電子系超伝導体CeCu2Si2の熱伝導率測定と、電子線照射試料における電気抵抗率測定を行うことで、CeCu2Si2はフルギャップS++波超伝導であることを明らかにした。このことは、強いクーロン斥力にも関わらずオンサイトでクーパー対を形成することを意味しており、これまでの非従来型超伝導に対する理解を覆す結果となった。また、量子スピンアイスPr2Zr2O7の熱伝導率測定から、フォトン励起を観測した可能性がある。現在、これらの結果を論文としてまとめ上げている。以上を踏まえると、研究はおおむね順調に進展していると言える。
今後は磁場方向を変えてPr2Zr2O7の熱伝導率測定を行い、フォトン励起の可能性を議論する予定である。また現在、熱ホール効果の測定プローブを立ち上げているので、これを用いてスピン液体の新奇素励起の物性について研究していきたい。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Nature Communications
巻: 7 ページ: 10807_1-6
10.1038/ncomms10807
Physical Review Letter
巻: 115 ページ: 027006_1-6
10.1103/PhysRevLett.115.027006