研究課題
研究代表者は前年度分子線エピタキシー法(MBE)とSTMを組み合わせたシステムの立ち上げを行った。そしてこのMBE-STMシステムを用いて、重い電子系超伝導体CeCoIn5のエピタキシャル薄膜を作製し、その原子層レベルに平坦かつ清浄な表面を大気曝露することなくその場観察することに成功した。本年度はさらにCeを一部Laに置き換えた(Ce,La)CoIn5の薄膜を作製し、Laによる不純物効果の評価を始めた。現在その研究を遂行しているところである。また本研究代表者は前年度STMおよびSTSを用いて、FeSeにおいて双晶境界が超伝導ギャップに与える影響についても調べ、その双晶境界近傍で時間反転対称性の破れた超伝導状態が実現していることを明らかにした。本年度は上記研究について論文を執筆し、Physical Review Xに論文が掲載された。さらに、研究代表者は鉄系超伝導体FeSeの純良単結晶試料を用いて熱伝導率および熱ホール係数の測定を行った。本研究はドイツの研究機関Helmholtz-Zentrum Dresden-Rossendorfとの共同研究で、20 Tマグネットおよび3Heシステムを用いて低温強磁場領域の測定を重点的に行った。先行研究の熱伝導率測定では、超伝導相の低温高磁場領域に新たな相転移があるのではないかと示唆されていた。本研究の結果として、高磁場領域で熱伝導率および熱ホール係数に2度折れ曲がりを確認し、やはり超伝導相の低温高磁場領域に新たな相転移があることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
理由として、立ち上げたMBE-STMがうまく動き出し、重い電子系化合物CeCoIn5エピタキシャル薄膜の清浄表面の観測に成功していることが挙げられる。またCeをLaで置き換えた(Ce,La)CoIn5の薄膜作製を行い、近藤ホールの電子状態の研究も現在進行中である。また研究代表者は鉄系超伝導体FeSeの研究にも取り組んでいる。前年度は走査型トンネル顕微鏡(STM)と走査型トンネル分光法(STS)を用いてFeSeの双晶境界周りの超伝導状態の研究を行い、時間反転対称性の破れた超伝導状態が双晶境界周りで実現していることを見出した。今年度、本研究成果について論文を執筆し、Physical Review X誌に掲載された。さらに、ドイツの研究機関Helmholtz-Zentrum Dresden-Rossendorfとの共同研究で、低温強磁場下でのFeSe単結晶の熱伝導率・熱ホール係数の測定も行っている。以上、本課題研究も順調に研究を進めているうえ、本研究課題以外にも力を入れているので、おおむね研究は順調に進展していると言える。
今後は引き続き立ち上げたMBE-STMシステムを用いて、近藤ホールの研究を行っていく。また、重い電子系化合物を用いた超薄膜を作製し、本システムを用いて2次元の重い電子状態の直接観測にも挑戦したいと考えている。また、鉄系超伝導体FeSeの研究に関しては、熱伝導・熱ホール効果の追加実験を行い、近日中に論文投稿を行いたいと考えている。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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