本研究の目的は、AdS/CFT対応を実現させる本質的な機構を理解することであり、この問題に取り組むアプローチとして、この対応関係の弦理論側(AdS5xS5上の超弦理論)の可積分変形を研究してきた。 本研究では、AdS5xS5上の超弦理論を可積分変形する方法として、弦の作用のYang-Baxter変形を考えてきた。Yang-Baxter変形とは、古典Yang-Baxter方程式の解である古典r行列に基づいて作用を可積分変形する手法であり、このようにある古典r行列を1つ定めると、それに対応するAdS5xS5上の可積分変形が与えられる。このYang-Baxter変形に基づき、本研究ではAdS5xS5上の超弦理論のq変形について議論してきた。このq変形されたAdS5xS5上の超弦理論に双対なゲージ理論はまだ見つかっていないため、その正体を明らかにすることは非常に興味深い問題である。 本年度は、このAdS5xS5上の超弦理論のYang-Baxter変形について、主に2つの研究成果が得られた。まず1つ目の研究では、q変形されたAdS5xS5上の超弦理論のLax対をYang-Baxter変形を用いて厳密に導出した。これより、q変形されたAdS5xS5上の超弦理論に双対なゲージ理論が、非可換空間上のゲージ理論のある極限に対応すると予想されることがわかった。2つ目の研究では、このq変形されたAdS5xS5上の超弦理論に双対なゲージ理論におけるクォークと反クォークの間のポテンシャルを弦理論側の計算から導出した。この得られたポテンシャルを再現する様なBethe ansatzを構成することができれば、双対なゲージ理論側の正体について詳しい情報が得られるものと期待される。
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