本研究では、16世紀前半のハプスブルクとフランスの平和条約がネーデルラントとフランスの境界周辺で締結されたことに注目し、ハプスブルク家の支配領域の一部でありながらも、独自の統治体制を保持していたネーデルラントが平和条約の交渉・実現において果たした役割を明らかにすることを目的としている。そのために、一連の休戦条約や平和条約の準備・締結・履行の過程でヨーロッパ各地に派遣されたネーデルラント使節の実態を、現地の手稿史料に基づいて明らかにし、彼らの活動やネットワークを検討する。 本年度の前半、ベルギーのカトリック・ルーヴェン大学の近世史部に客員研究員として受け入れてもらい、研究活動を行った。その間に、これまで研究してきたカール5世期のネーデルラント使節に関する成果報告の機会も与えられ、大学教員らと議論することで、研究発展につなげることができた。その後、ルーヴェン大学では、スーン教授らに、刊行に向けて作成中の論文を読んでもらい、アドバイスを受けながら、英語論文刊行に向けて具体的に進めていき、一人の使節に関する論文をベルギーの史学雑誌Revue Belge de Philologie et d’Histoire/ Belgisch Tijdschrift voor Filologie en Geschiedenisに英語で投稿することに決めた。日本に帰国後、英語のチェックなどを受け、現在、投稿に向けて最終的な準備段階に入っている。また、ベルギー滞在中には、史料収集のためフランス・ノール県文書館に通い、以前より交流のあるヘント大学の教授らとも学術交流の機会を持った。年度後半は、ベルギーでの研究を成果発表する準備をするとともに、本研究の最終目的である中世末期から近世にかけてのヨーロッパの外交使節研究における「ネーデルラント使節」の位置づけの検討にも取り組んでいる。
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