研究実績の概要 |
セルロース加水分解反応に対して高い触媒活性を示すアルカリ賦活炭(以下K26と表記)上へのグルカン(グルコース、セロビオース、セロトリオース)の吸着過程を調べた。まず、セロビオースの吸着実験を行ったところ、K26が持つミクロ孔(平均直径0.7nm)にセロビオース分子が取り込まれたことが示唆された。このことは、酵素の触媒活性サイトに存在する細孔と同様に、炭素のミクロ孔にも基質を取り込む能力があることを示している。次に様々な温度で吸着実験を行い、Langmuir式およびvan't Hoff式を用いて解析した。いずれの吸着質を用いた場合でも負のエンタルピー変化と正のエントロピー変化が得られた。つまり、本吸着過程はエンタルピーとエントロピーの両方により駆動されていることが分かった。対照実験ならびにDFT計算の結果から、それぞれの値は炭素とグルカンの間に形成されるCH-π水素結合と、疎水性相互作用に由来することが示唆された。従って、グルカンと炭素の疎水性官能基が引き起こす相互作用が本吸着過程の駆動力であり、それによりもたらされる両者の高い親和性が炭素の高い触媒活性に寄与していると推測している。 また、グルコースから工業的に誘導可能なソルビトールの転換反応に着目した。ソルビトールを硫酸存在下で脱水させ、環境低負荷な界面活性剤の原料となる1,4-ソルビタンを良好な収率(58%)で合成した。一般に、1,4-ソルビタンは酸触媒存在下で容易に逐次脱水を受けるため、良好な収率で合成することは難しい。そこで硫酸の特徴的な触媒作用を明らかにするために動力学的な解析を行った。その結果、1,4-ソルビタンと比較して、ソルビトールは硫酸と会合体を4.3倍形成しやすいことが分かった。従って、1,4-ソルビタンは硫酸と相互作用しにくく逐次脱水が抑制されるため、選択的に合成することができたと結論した。
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