本年度は、教師による日本語学習者の発話「文」に対する評価に関する検討(研究1)、日本語学習者による他者評価のレベル別検討(研究2)、撥音の誤りを対象とした誤りの重みの検討(研究3)を中心に実施した。 研究1の目的は「語」で評価を下げた特徴が「文」に現れた場合の評価について、日本人教師とロシア人教師の相違を検討することであった。分析の結果、「文」に対する評価においても「語」に対する評価と同様の評価差が見られた。ただし、教師の「文」に対する評価は個人差も大きいことから、今後は評価に個人差が現れやすい特徴の検討が課題である。 研究2の目的は初級学習者と中上級日本語学習者の発音評価の相違を検討することであった。分析の結果、単音、リズム、アクセントのどの特徴においても、初級学習者より中上級学習者のほうが評価が厳しいことがわかった。このことから、学習者の発音評価基準は学習が進むにつれ厳しくなることが示唆された。 研究3の目的は日本人に厳しく評価される「撥音と母音が連続した音を含む語」にみられる発音の誤りが、誤りのタイプによって評価が異なるかどうかを検討することであった。分析の結果、撥音の後にポーズを入れて発音する誤り(例「さんおく→さ[n]/おく(ポーズ挿入)」)は、他の誤り(「さ[n]おく」や「さのく」など)より日本人の評価が寛容になることが示された。 本研究の意義および重要性は、日本語学習者の発音に対する評価を4者の評価、すなわち「一般日本人」「日本人教師」「非母語話者教師」「学習者」の評価に焦点をあてて検討している点にあると言える。本研究では、こうした多角的検討をもとに、教師が認識すべき自身の発音評価特性や、指導する際に考慮すべき学習者の発音評価特性、誤りのタイプによる誤りの重みの相違などを明らかにすることで、国内外の日本語音声教育における指導の指針となる示唆を得ることができた。
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