研究課題/領域番号 |
14J01189
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
井戸 美里 筑波大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | とりたて詞 / 統語論 / 情報構造 / 焦点 / 前提 / 否定 |
研究実績の概要 |
本研究は、とりたて詞の統語的特徴と談話・情報構造や評価性(CP領域)との関連を明らかにすることを目的とした理論的研究である。この目的の達成にむけ、本年度は①否定的評価を表すとりたて詞ナドの談話・情報構造からの分析、②①の対象の拡張と談話・情報構造との対応関係に関する分析、③とりたて詞の否定極性の有無と焦点の種類の対応関係に関する分析という3つの取組を行った。 ①の内容は、本課題遂行の土台となるものである。すでに、否定的評価を表すとりたて詞ナドに統語的には2つの用法があることを井戸(2013)で指摘しているが、その2用法が単に統語的特徴の違いを表すだけでなく、談話と密接に関係していることを示した。 ②については、①の内容を拡張させ、ナド、マデ、ダケを対象として、とりたて詞と談話との関わりを分析した。その結果、ナド、マデと異なり、ダケは①で指摘した2用法の対立を持たないこと、一方、「ダケハ」という形式であれば2用法の対立を形成できることを指摘し、とりたて詞への「ハの後接・編入」という操作が、とりたて詞と談話との関わりを体系的に説明することを指摘した。また、「ハの後接・編入」という操作の妥当性を示すものとして、通時的研究の成果を活かした。 ③については、とりたて詞の「否定や否定的評価との呼応」という統語的特徴と情報構造との関わりを分析した。具体的には「焦点」とは、均質なものではなく、いくつかの種類があるという先行研究の指摘をとりたて詞に導入し、とりたて詞が否定極性を持つか否かによって、焦点の種類が異なるという現象を発見、整理した。 以上のような研究成果は、とりたて詞と談話・情報構造の体系性の解明のための重要な指摘であると言える。①についてはすでに論文として『筑波応用言語学研究』(21)に発表済みであり、②③については発表に向け現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分析対象としてサエを除き、通時的研究については用例採取でなく先行研究の指摘を応用する形をとる等、当初の予定から変更した点もあるが、予定どおり、とりたて詞の統語的特徴の情報・談話構造における分析、分析対象の拡張、通時的研究の成果との比較検討については一定の成果を出しており、本研究は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、とりたて詞の統語的特徴と談話が密接な関係にあることを明らかにした。今後の課題として、①とりたて詞の意味的特徴と談話との関係、②より精緻なCP領域の統語構造の提案、③通時的研究との比較検討が挙げられる。 ①について、とりたて詞には、否定や否定的評価と呼応するとりたて詞が複数存在するが、否定や否定的評価は、意味論的には「下方含意」の環境を形成するものである。下方含意という意味的環境と談話との関わりを明らかにすることでとりたて詞の「統語・意味・談話」の体系性を明らかにすることに繋がり、ひいてはCP領域の構造の解明に繋がることと予測される。 ②について、今後はトピック―コメント構造、前提―焦点構造と呼ばれる情報構造と、日本語学の分野で「とりたて」と呼ばれるものの関係を分析し、精緻な構造を提案する必要がある。本年度の研究では、統語と情報構造の密接な関係を明らかにはしたものの、精緻な構造を提案するには至っていないためである。 ③について、さらに広い範囲で通時的研究の成果の知見を本研究に活かす必要がある。当初の予定では、用例採取から実施することになっていたが、新たな先行研究も複数発表されているため、これらの知見を活かす形で本研究に取り入れていくことも考えられえる。
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